こんにちは、重松マンション管理士事務所所長の重松です。
国土交通省が公表しているマンション標準管理規約をご存知ですか?
もともとは、マンションを新築して分譲する際に、分譲業者に対し、管理規約を作成する場合のモデルとして使用するように指導されたものですが、最近では管理組合が管理規約を改正する際も、この標準管理規約に沿った形で改正することが望ましいとされており、いわば、バイブル的な存在となっています。
定期的に見直しが行われ、今回は2013年から見直し作業が行われていましたが、最終案がまとまり2016年3月14日にリリースさました。
国が定めた基準のようなものと理解されていますので、標準管理規約が改正されると少なからず管理組合にも影響を及ぼすことになります。
ところで、マンション管理の情報に明るい方ならご存知だと思いますが、今回の改正では、いわゆる「コミュニティ条項」が大きな話題となっています。
この件については当事務所が顧問契約先に定期的にお送りしているマンションサポート通信の2015年7月号に廣田信子さんが寄稿してくださったのでご参考にしていただき、今回はコミュニティ条項以外の改正のポイントを何点か私の個人的な感想も含めて説明させていただきます。
なお、彼女の寄稿の中に記載のある判例は、平成17年4月26日の最高裁判決です。
※記載している標準管理規約の条文番号は、「単棟型」を引用しています。また、区分所有法の条文番号の場合は「法第○条」と記載します。
1.外部専門家の活用
組合員の高齢化、賃貸化住戸の増加、マンション管理を取り巻く環境の変化(法律・技術の高度化)等の問題で、マンション管理に関する専門的知識に乏しい組合員だけで適正なマンション管理を推進していくことが困難な状況になっていることはお感じになっていると思います。
従来は、外部の専門家に相談したり、助言を求めたりすることができる規定はありましたが、今回の改正では、更に踏み込んで外部の専門家を理事長や監事を含む役員として起用することができる規定を設けおり、改定の大きな目玉となっています。
但し、組合員とは利害関係が必ずしも一致しない外部専門家を起用するわけですから、起用方法に関しては、別途細則を作り、「資格」、「任期」、「報酬」、「業務内容」、「業務のチェック方法」、「専任・解任の規程」等を定めることが望ましいと思います。
2.リフォーム工事に関する規定の明確化
専有部分のリフォームに関しては、従来は全てのリフォーム工事について事前に申請し、理事長の承認を得ることを義務化していましたが、今回は「共用部分又は他の専有部分に影響を与えるおそれのあるもの」に限って理事長の承認を必要とし、その他の工事については、「業者の立入り、資機材の搬入、騒音・振動・臭気等、管理組合として事前に把握しておく必要のある工事」については、事前に理事長に届け出ることにより実施可能、それ以外のリフォーム工事に関しては自由に実施できることになっています。
工事内容によって実施(申請)方法を明確にし、区分所有者の負担を軽減したようにも考えられますが、逆にリフォーム工事によって共用部分や他の専有部分を毀損した場合は、リフォーム工事を発注した区分所有者の責任と負担で適正に対応(修補や弁償)することも明確化しています。
3.暴力団等の排除規定の新設
従来の第19条(専有部分の貸与)の後に、「暴力団員の排除」という項目で新たな条項(第19条の2)を設け、賃貸借契約後に賃借人が暴力団員と判明した場合や暴力団員になった場合は、契約を解除する旨を賃貸借契約書に定めることを義務化しています。
更に、区分所有者が、賃貸借契約の解約権を管理組合が代理して行使することを認める書面を提出することにより、管理組合が当該暴力団員と区分所有者の賃貸借契約を解除することができる規定も入っています。
暴力団の排除が社会的なテーマとなっている昨今、ゴルフ場の利用申込書やホテルの宿泊申込書等に、暴力団員ではない旨の記載欄があり☑を入れるようになっている書式を皆様もよくご覧になると思いますが、マンション管理にも同じ流れを採用していることが読み取れます。
なお、国交省のコメントには「譲渡(売買)」の場合も賃貸借と同様の取決めを新旧区分所有者間の売買契約に謳うことも考えられるとしています。
個人的には、契約で取決めても相手が暴力団員であれば、契約解除等にすんなり応じることは考えられないので、結局は区分所有法第60条(賃貸借契約の解除と引渡し請求)や同第59条(区分所有権の競売請求)を活用することになりそうな気はしますが、規約や売買契約書に明確に規定することにより、暴力団員等に対するけん制効果は期待できるのではないかと思います。
4.保存行為の実施規定と、災害時、緊急時の管理組合の意思決定について
区分所有法では、保存行為(台風で割れたガラスの入替え、汚れた個所の清掃等)は、区分所有者が自由に行うことができますが(法第18条)、標準管理規約では、専用使用部分を除き、保存行為も管理組合が行うことになっています(第21条第1項)。
しかし、マンション管理の専門家でない区分所有者は、第21条を読んでもそのようには理解することができず、行うことができる保存行為の範囲や、勝手に実施した際の費用負担等で管理組合とトラブルになることも多かったと思います。また、管理組合が保存行為を行う際の手続き等も明確ではありませんでした。
今回の改正では、区分所有者が行うことのできる保存行為の範囲と費用負担を明確にし、管理組合が行う保存行為についても理事会決議で行う等の手続きを明確にしました。
また、災害時には理事長の判断で、復旧等の保存行為を実施することができるようにし、
更に、その費用を支出する根拠規定を収支予算の変更(第58条第6項)に規定しました。
なお、管理を行うために必要な範囲内で、理事長が専有部分等に立ち入ることができる規定は従来からありましたが(第23条第1項)、「必要な範囲内」については、明確な規定はなく、時として解釈をめぐり当該区分所有者や占有者とトラブルになることもありました。
今回の改正では新しい条文を追加して、「災害、事故等が発生した場合」であって、「放置した場合は共用部分や他の専有部分に重大な影響を与える場合」には立ち入ることができる規定を明記し、理事長が専有部分に立ち入ることができる範囲をより明確に規定しました。
5.役員の利益相反取引の制限
管理組合が、役員が経営している会社に工事を発注したり、その会社から物品を購入したりすると後でトラブルになることはよくある話です。
会社法では、利益相反取引を行う場合は株主総会や取締役会の承認を得なければできない旨がきちんと定められています。管理組合においても、役員はマンションの資産価値の保全に努めなければならない事はいうまでもなく、個人の利益のために管理組合と取引を行うことは適切ではありません。個人的にはそれ以前の問題として、誤解を与えかねない取引は原則として行わない方が無難であると感じていまが、発注する内容次第では、稀には許される(管理組合の利益になる。)こともあると思います。従来は利益相反取引について明確な規定はありませんでしたが、今回の改正では第37条(役員の誠実義務等)の後に、第37条の2(利益相反取引の防止)を新設し、管理組合と役員の間で利益相反と思える取引をする場合は、事前にその事実を開示したうえで、理事会の承認を得なければならない旨を規定しました。
また、同様の趣旨により理事会の決議を行う際には、その決議に利害関係を有する理事は議決に参加できないこととし(第53条第3項)、更に理事長と管理組合の利益が相反する事項に関しては、監事又は他の理事が管理組合を代表する旨を規定しました(第38条第6項)。
この規定の対象は、「役員」となっていますが、一般の組合員や居住者にも適用することも考えられます。例えば、修繕工事等を組合員や居住者に発注した場合、過去の私の経験では①工事完了後にきちんと報告書を出すように依頼したら、「安くやっているのでそんな手間のかかることまではできない。」といわれ、必要な図書が整備できなかった。②工事の内容に不満があるが、安くやってもらっているので文句をいいにくい。③不完全な工事個所があるので、理事長がやり直すように指示をしたら、反発されてその後の人間関係が悪くなった。④保証期間内に不具合が発生したが、工事をした組合員は既にマンションを譲渡して退去してしまったので責任を取ってもらえなかった等、枚挙にいとまがありません。
「親切な組合員や居住者が、安くやってくれたのでよかった。」という場合もありますが、そうならないことの方が圧倒的に多いので、利害関係者への発注は原則として禁止した方が無難だと思います。
6.理事会における代理出席について
管理組合の役員は、多くの場合輪番制で選出され、役職も「くじ引き」等で決まることが多いことは周知の事実です。
私も多くの管理組合の理事会を拝見していますが、ご主人がお仕事で忙しい場合等は、奥様が代理で出席している例は多く、やむを得ないこととだと感じています。
規約を厳格に適用し、代理出席は認めないとしたら、理事会そのものが成立しない場合もあるからです。
従来は、理事に事故等があり理事会に出席できなくなった場合、配偶者や1親等親族の代理出席について規約で定めることもできるとしていましたが、今回のコメントでは、規約で定めることは有効と認めながらも、「理事会に出席できないやむを得ない理由」を厳格に適用すべきとしています。また、代理出席を認める場合でも、総会において代理人の資質や能力をあらかじめ審査して決定することが望ましいとしています。
また、安易な代理出席を認めるよりも、事前に理事会の議題を通知しておき、議決権行使書等で意思表示ができる旨を規約で定める方が望ましいともコメントしています。
区分所有者による管理組合活動が積極的に行われている管理組合の場合は、理事の代理出席等はあまり考えなくても良いと思いますが、必ずしもそうでない管理組合も結構多く、輪番制で選出され、専門的知識も乏しい理事たちで何とか理事会が開催できている管理組合の場合は、ややもすると管理会社主導のマンション管理に陥ってしまう可能性もあります。そのようになってしまうと、標準管理規約を改正したことがかえって理事の負担を増加させ、管理組合の利益を損なう結果となってしまうような気もしました。
7.その他
議決権割合
議決権の割合は共用部分の持分割合によることが原則(法第38条)ですが、今回の改正では、初めて専有部分の価値(眺望・日照等)も考慮したうえで議決権を規約で別に定めることも可能としています。
これについては、詳細な解説は割愛しますが、個人的には賛成しかねます。
管理費等の滞納に対する措置
管理費等の滞納は、マンション管理に重大な影響を及ぼすことに鑑み、滞納者に対する督促義務や手順を明確にするとともに、遅延損害金の利率にも踏み込んでコメントしています。
管理状況等の情報開示
組合員から理由を付した書面で閲覧請求を受けたときに対象となる書類等に、長期修繕計画書、設計図書、修繕履歴等を追加するとともに、閲覧に代わり必要な個所の写し等を提供できる規定を設けました。
さいごに
今回の標準管理規約の改定については、パブリックコメントにおいて、多くの著名な団体からコミュニティ条項の削除に対して反対意見が寄せられていました。
このことだけを見ると、改正された標準管理規約案は「駄作」のような印象を受けますが、国交省のコメントも含めてよく読んでみると、決してそのようなことはないと思います。
確かにコミュニティ条項の削除は、賛否が分かれるところではありますし、住戸(専有部分)の価値によって議決権割合を変えること等は、なかなか理解しにくい面もあります。
しかし、私なりに考えてみましたが、今回の改正は「管理組合はマンションの資産管理(資産価値の維持・向上)が主要な業務である。」というメッセージを管理組合に向けて強く発信しているように感じます。
そのために、理事会の義務や権限を明確化したり、強化したりするとともに、外部専門家の活用については従来以上に踏み込んで肯定的なコメントをしています。
また円滑なマンション管理を遂行するうえで、一定範囲のコミュニティ形成は有効と認めながらも、そのための管理費の使い方については「自治会等」と混同しないように注意を促しています。
国土交通省は、築30年以上の高経年マンションストックが増加し、同時に建替えを含む管理が適正に行われずに老朽化・スラム化しているマンションが増加していることに危機感を感じているのではないかと思います。
標準管理規約は絶対的なものではありませんので、それぞれのマンションの事情に応じて臨機応変に修正しながら活用するべきものではありますが、冒頭に申し上げた通り国の指針のような位置付けとなっていることも事実です。
そのため、コミュニティ条項が削除されたことについて、大手新聞社ですら「管理費会計からは親睦会的な支出ができなくなった。」と不正確な記事を出したりしています。
皆様方には、コミュニティ条項だけでなく、それ以外の改正項目についても目を向けていただき、皆様のマンションの管理がさらに向上する糧にしていただきたいと思います。
投稿者プロフィール
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プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。
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