管理者に就任していた管理会社の社員が議長を務めた総会における「議長一任」の委任状は、総会議決権の代理人受任資格を欠き無効ー。こんな理由で、総会で決まった設計・監理コンサルとの長期修繕計画作成業務契約を認めず、代金の支払いを拒否した神奈川県の管理組合に対し、設計・監理コンサルが業務報酬120万円と遅延損害金の支払いを求めた訴訟の控訴審判決が6月15日、東京地裁で言い渡された。田中秀幸裁判長は「総会決議は有効」だとし、一審判決同様、管理組合に対し120万円と遅延損害金の支払いを命じた。管理組合側は上告している。
 
 裁判資料によれば、このマンションは今年で築約30年。いわゆる投資型物件だ。
 8年前までは区分所有者が管理組合理事長・管理者に就任していたが、当時の理事長が住戸の売却を決めた際、後任者が見つからないなどの理由で、この元理事長が「当面管理者に就任する」と管理規約を改正。図らずも「第三者管理」方式が実現した。
 同様の状態がその後も続き、再度規約を改正し、今度はマンションの管理業務を受託する管理会社が管理者に就任することになった。この間管理組合理事長は不在で、理事会も存在していなかったようだ。
 トラブルの原因になった長計の作成業務契約は、管理会社が管理者に就任していた3年前の総会で承認されている。
 ところが契約期間内に長計が作成されなかったため、区分所有者から不満が噴出。その後、長計は管理会社に提出されたが、管理会社は管理組合に長計を提出せず、また管理会社・コンサル共に管理組合に内容の説明などを行っていなかった。
 管理会社・コンサル双方に不信感を抱いた管理組合は態度を硬化。費用の支払いを拒否したため、コンサル側が管理組合を提訴した。提訴時点ではすでに管理会社は管理者を退き、区分所有者が管理組合理事長に就任する従来の従来の管理運営方式に戻っていたが、管理会社から管理組合に長計は提出されていなった。

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 裁判で管理組合側は、総会で代理人が議決権を行使する場合、代理人の資格は管理規約で「組合員と同居する者もしくは住戸を買い受けた者」「他の組合員もしくはその組合員と同居する者」に制限されている、と指摘。組合員でない管理会社の社員が務めた総会議長に対する白紙委任状に基づく長計作成行為は「管理者である管理会社の越権行為で、管理組合との間では無効」と訴えた。
 コンサル側は「契約は管理者の権限で締結でき、総会決議は不要」などと反論した。
 昨年10月25日の東京簡裁(味方信昭裁判官)ではコンサル側が勝訴。総会決議は有効だとし、管理組合に120万円と遅延損害金の支払いを命じたため管理組合側が控訴していた。
 控訴審判決で田中裁判長は、長計の作成・変更に際しては「総会決議は必要」とし、まず今回のトラブルの背景に言及した。
 田中裁判長は、契約で提示した期間内に長計が提出されなかったため「一部組合員から契約の撤回や解除を求められていた」「管理会社が管理組合に長計の交付を怠っていた」と指摘。だが、一方で「管理組合は契約の解除を実行するには至らず、長計を受領した時点ではいまだ管理者の地位にあり、受領権限に欠けるところはなかった」とも。
 こうした事情を考慮し「管理者に管理組合の運営を一任していた管理組合において、管理会社に管理者の責任を追及するのはともかく」、第三者であるコンサルとの間で「自らの契約責任を免れる事情とすることはできない」と述べた。
 議決権行使における、管理規約の代理人規定については「資格制限の規定はあるものの、管理者である議長に議決権行使を委託していたとしても規約の趣旨に反するとは言えない」と判断し、総会決議は有効だと結論付けた。

 以上、マンション管理新聞第1076号より抜粋。

投稿者プロフィール

福井 英樹
福井 英樹福井英樹マンション管理総合事務所 代表
マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者