理事の「罷免」を議題に挙げた臨時総会を監事が招集し、解任を決議したのは監事の権限を逸脱しているなどとして、解任された理事4人が今年3月、前橋地裁に地位保全の仮処分を申し立てる事件があった。前橋地裁は4人の申請を却下。3人が抗告したが、東京高裁は9月までに2人の抗告を棄却する決定をしている。前橋地裁の高橋浩美裁判官は、監事は「自ら必要と考える理事解任の議案を提出し、その決議を求めることもできる」とする判断を示した。
トラブルが起きたのは、群馬県のリゾートマンション。
今年2月、管理組合法人の理事8人中、4人の解任を議題とした臨時総会を監事が招集し、賛成多数で可決した。
監事は議案説明書で、この4人を「正当な理由もなく、大規模修繕工事の実施計画遂行を妨害・遅延させる行為を繰り返したのは善管注意義務違反だ」などと避難。これらの行為は「理事としての適格性・資質に欠け、理事会の健全運営に支障を来し、管理組合を害することになる」と結論づけ、理事の「罷免」を求めた。
臨時総会で解任された理事は、この決議に「監事は報告のための臨時総会招集権はあるものの、区分所有法や管理規約上、理事解任決議案を提出して総会で採決させる権限は全くない」と強く反発。3月には「決議は違法な手続きによるものだから無効」だとし、現在も理事の地位にあることを保全するよう、前橋地裁に申し立てた。
◇
元理事は決議の違法性について、まず区分所有法50条(下記関係条文①参照)違反を指摘した。
50条3項は管理組合法人の監事の職務として「財産の状況や業務執行について法令や管理規約に違反し、または著しく不当な事項があると認めるときは集会に報告をする」「報告をするため必要があると認めるときは集会を招集する」などと規定。「監事自らが招集した総会で行うことができる事項は『報告』に限定されていることは明らかだ」と訴えた。
管理規約の条文からも同趣旨の記載がある、と述べた。管理規約の条文は、マンション標準管理規約(2011年版)と、ほぼ同様の内容だった(同)。おととしの改正では監事に関する規定が増えたが改正前の規定も引き継がれている(下記参考条文②参照)。
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元理事1人に対する今年5月22日の決定は却下。他の3人の申し立ても却下された。
高橋裁判官は、監事の招集する総会の議題は、区分所有法上は「報告に限られると考えられる」と判断した。ただ、一方で「法の規定は強行規定ではなく、規約で異なる規定を置くことも許されると解される」とも。
その上で「不正があると認めるときは臨時総会を招集できる」と規定されている、このマンションの管理規約条文について「報告のために必要があるときに限定されていない」と言及。
条文は「管理組合法人の業務の執行・財産の状況について不正がある」と認める場合、喫緊に対応策を講じなければならない状況だから、監事が総会を招集する場合「報告」のみならず「不正な業務執行等に関わる理事の解任など、自ら対応策として必要と考える議題も適宜提案できる趣旨だと考えられる」と解釈した。
この解釈を前提に、高橋裁判官は「規約上」、「招集予定の総会で自ら必要と考える理事解任の議題を提出し、決議を求めることもできる」と結論づけた。実際に不正な業務執行があったかどうかは認定していない。
仮に監事が招集する総会における議題が「報告」に限られ、監事による議案提出が手続き上の瑕疵だったとしても、賛成が過半数に達している点などから「決議を無効とするだけの重大な瑕疵だったということはできない」とする判断も示した。
元理事は、委任状は監事が開封し票を集計したため票数に疑問がある、と主張したが認められなかった。
◇
元理事は即時抗告を行ったが東京高裁も9月25日、抗告を棄却する決定をした。
川神裕裁判長は、地裁決定同様、区分所有法と管理規約の条文の違いを指摘。
「文言上『報告をするために(必要があるときは)』といった限定はされていない」とし、「監事が臨時総会を招集し得る場合は、区分所有法の定める監事が総会を招集し得る場合よりも拡張されていると見ることもできる」から、「区分所有法と管理規約の構造が全く同一であるということはできず、主張は前提を欠く」と述べた。
①関係条文
区分所有法
(監事)
50条 管理組合法人には、監事を置かなければならない
2 監事は理事または管理組合法人の使用人と兼ねてはならない
3 監事の職務は、次のとおりとする
一 管理組合法人の財産の状況を監査すること
二 理事の業務の執行の状況を監査すること
三 財産の状況または業務執行について、法令もしくは規約に違反し、または著しく不当な事項があると認めるときは、集会に報告すること
四 前号の報告をするため必要があるときは、集会を招集すること
4 (略)
管理規約
(監事)
監事は管理組合法人の業務の執行および財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない
2 監事は、管理組合法人の業務の執行および財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる
②参考条文
マンション標準管理規約
(監事)
41条 監事は、管理組合の業務の執行および財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない
2 監事は、いつでも、理事および第38条第1項第二号に規定する職員に対して業務の報告を求め、または業務および財産の状況の調査をすることができる
3 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる
4 監事は、理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない
5 監事は、理事が不正の行為をし、もしくは当該行為をする恐れがあると認めるとき、または法令、規約、使用細則等、総会の決議もしくは理事会の決議に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を理事会に報告しなければならない
6 監事は、前項に規定する場合において、必要があると認めるときは、理事長に対し、理事会の招集を請求することができる
7 前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を理事会の日とする理事会の招集の通知が発せられない場合は、その請求した監事は、理事会を招集することができる
以上、マンション管理新聞第1087号より。
当該裁判所の判断は、妥当であり、小職らが通念上理解している「監事」に対する認識に近いものであり、監事が臨時総会招集権のみで、総会で採決させる権限がないとすること自体
極めて歪な解釈と思われます。
投稿者プロフィール
- マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者
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