10月20・21日に横浜市の神奈川県弁護士会館で開かれた第21回全国マンション問題研究会の要旨を市場採録しています。最終回の今回は、度重なる漏水で専有部分を使用できなかったとして、賃借人が管理組合に損害賠償を求めた事案を取り上げます。 <構成・編集部>
<事案の概要>
売買予約付きで最上階の住戸に入居した賃借人が、屋上などからの漏水で専有部分を使用できなかったとして管理規約上の責務を果たさなかった「債務不履行」もしくは土地の工作物責任に基づく損害賠償を求めて、管理組合を提訴した事案。
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マンションは築約30年・6階建て。
入居から約2年後の2011年6月に天井裏からの漏水が発覚したため、管理組合は同年8~9月、屋上防水などを実施。だが、この年の10月には天井や柱付近の床に漏水のしみが発覚。12年3月にも漏水が発生し、補修が行われたが、床の漏水は続いた。
別の専門業者が14年9月ごろ、床への漏水の有無を調べるため散水試験を実施した結果、サッシの経年劣化などを原因とする浸水が確認され、サッシは15年6月までに管理組合の費用負担で交換した。
それを受けて区分所有者・賃借人と管理組合は同年7月、一連の漏水について管理組合が修復費用237万6000円を払い、修復に充てないときは返還する内容の合意をした。
ところが、約1ヶ月半後にまた床の漏水が発生。外壁等に水の存在があることが確認されたため、補修した。
賃借人は同年10月、「管理組合がその責任と負担で共用部分を管理する」と定めた管理規約に反し漏水を解決しないため、住戸を使用できなかったとして、区分所有者から譲渡を受けた債務不履行・民法717条1項の土地の工作物責任に基づく損害賠償請求。賃料相当額640万6800円の支払いを求めて提訴した。
提訴から約2ヶ月後に天井や床に漏水があり、業者が防水を張り直すなどして16年1月に最終的に止まった。
今年2月20日の横浜地裁判決は、原告の請求を棄却。7月4日の東京高裁判決も原告が敗訴したため、原告は上告している。
<判決要旨>
一審・横浜地裁判決は、管理規約の規定から「共用部分から専有部分への漏水で専有部分の使用に支障が生じたときは、漏水の程度に応じ」、区分所有者には「漏水で被った使用料相当額等の損害賠償を求める余地がある」と指摘した。
ただ管理組合が事前に漏水を予測したりするのは難しく、また専有部分の漏水を発見するのは占有者であるのが通常だといった点を考慮し、漏水発生の連絡を受け、その後遅滞なく調査や補修工事を行うなどして漏水を止めた場合は、「共用部分に瑕疵があるということはできず、損害賠償義務を負うことはない。」と述べた。
その上で、最初に判明した天井の漏水は、補修後約4年は再発していないとし、管理組合の「的確な対処がされており、債務不履行責任は生じない」と判断した。
床の漏水はサッシの経年劣化が原因で、管理組合との解決同意後の漏水は「専有部分の使用に支障を生じさせるとはいい難いもの」だと指摘し、管理組合の費用負担で補修した点から「管理責任は果たした」と判断した。
一方、提訴から約2ヶ月後の漏水は、11年8~9月に実施した防水工事の施工不良が原因と、推認し、管理組合は専門業者に工事を発注したが、管理規約に基づき「責任を免れない」と判断した。
原告の損害は漏水が和室の一部だった点などから10万円と認定した。だが原告は管理組合との合意に基づき受領した修復費を補修費に充てていないため管理組合に返還すべきだとし、この金額との相殺を認めた。
二審・東京高裁判決は、一審同様管理組合の債務不履行について、共用部分の管理義務違反があり、区分所有者が損害を受けた場合には「当該区分所有者に債務不履行責任を負う」と指摘した。
ただ、管理組合は漏水対応のような専門技術的な事項について「自身で対応する能力はない」と言及。管理組合は共用部分の管理責任を負う者として、漏水発生の連絡を受けたときは、遅滞なく専門業者に調査や工事を依頼することを要するが、こうした依頼をした場合「依頼した専門業者の選任監督上の過失があるときに限り『帰責事由』があるとして管理組合の債務不履行責任を問うことができる」との解釈を示した。
専門業者は管理組合が手足として使用する「履行補助者」ではなく、管理組合に代わって債務の履行を引き受けた「履行代行者」だと指摘した。
その上で、専門業者に調査や補修をさせるに当たり「その選任監督上の過失を裏付ける事実の主張および証拠はない」として、管理組合が「債務不履行責任を」負うことはないと判断。漏水解消までに4年を要した点について「仮に業者に過失があったとしても、管理組合に過失はなく債務不履行責任は問えない」と結論づけた。
<コメント> 業者を「履行代行者」認定 判決の影響大きい
高裁判決は「管理組合が委託した専門業者は履行代行者で、選任監督上の過失はないときは管理組合は責任を負わない」と判断した。
地裁判決は「履行補助者」だとしていた。業者の立場が補助者から代行者に代わっており、判決の影響は大きいと考えている。
工事の範囲や程度、費用について判断するのは管理組合だが、管理会社や工事業者に委ねて、それが不十分でも管理組合が「それでいい」と言い出したとき「履行代行者だから責任はない」とされてしまうと、区分所有者は管理組合の責任が問えない立場に立たされてしまい、救済の道がなくなってしまうのでは、という問題を感じている。
管理会社や補修業者の言いなりになってしまうのではないか。提案通りの補修をすれば管理組合に責任はない判例があると言われれば、あえて「この範囲で」とか「ここはもっとこうして」と言える理事が出てくるとは思えない。
管理会社の提案と違ったことをやって損害が生じた場合は管理組合の責任だとされてしまうと、管理会社や補修業者の提案通りの工事をやらざると得ないだろう。
一方、管理会社や補修業者の不手際で区分所有者が損害を受けた場合、免責される立場の管理組合が管理会社や工事業者の不手際について、熱心に責任追及するのは考えにくい。実際に本件でも管理組合は責任追及していないので、結局その負担は区分所有者が負うことになってしまうのではないか。
区分所有者だけが費用と時間をかけて、管理会社や補修業者の不手際を追求しなければいけないのは荷が重すぎる。責任を緩めて曖昧化するのは、結局はマンションの維持にとっていい方向にならないと考える。
以上、マンション管理新聞第1089号より。
一般的に雨漏りを止めることは建物のメンテナンスの中で最も難しいといわれています。雨漏りは多くの工事業者が苦手とする分野です。建物の内部を複雑に流れて室内に漏れてくるというケースも考えられます。このように複雑な経路で侵入してくる雨漏りは、原因を突き止めるだけでも相当困難な作業となります。
多くの工事業者は、雨漏り原因の究明を技術者の勘や経験に頼らざるを得ないのが現状です。すなわち、上記記事にあるように1回の調査と止水工事で雨漏りが、改善されないことが多く、雨漏りは1箇所止まると、また別の箇所から水漏れが発生することも多く、小職も経験していますが、雨漏りが何年も止まらないケースもありました。
なお、大規模修繕工事に際しては、雨漏り対応力の優れた工事業者を選ぶというのも賢明な選択といえます。最近今はやりのAI技術を駆使し、かなりの精度で、雨漏り改善を実践している業者もおられるようです。
投稿者プロフィール
- マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者
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