マンション管理新聞が管理会社30社に実施した雇用環境・管理受託状況調査。今回は管理受託状況調査の結果をまとめた(雇用環境調査結果は前号掲載)。調査では管理委託費の値上げの必要性を感じているか。委託費の値上げを提案していいるか、委託費の値上げ要因、管理組合に契約辞退などの措置を取ることがあるか、などについて尋ねた。30社全てが「管理委託費の値上げの必要性を感じている」と答え、そのうち9割が、実際に「値上げ提案を行っている」と回答。全体の7割以上にあたる22社が、契約辞退等の措置を「取ることがある」と答えた。

調査は総合管理受託戸数 A10万戸以上 B1万戸以上 C1万戸未満ーの各グループから、それぞれ10社を抽出して行った。調査時期は今年8月~9月。

 

管理受託状況

「管理委託費の値上げの必要性を感じているか」の問いには、30社全てが「感じている」と回答した(グラフ①省略)。

委託費の値上げ要因を自由回答で尋ねた。さまざまな内容の回答が寄せられたが、値上げの要因は「人件費の上昇」に、ほぼ集約できる。

具体的な回答で最も多かったのは「最低賃金の引き上げに伴う人件費の上昇」。15社がそう答えた(グラフ②省略)。

最低賃金は毎年上昇している。東京都の場合、2019年は前年比28円増の1013円だ。5年前の888円と比べ125円、10年前の09年との比較では222円も上昇している。

最低賃金の上昇が「労働集約型産業」と呼ばれるマンション管理に大きな影を落としているのは間違いない。

単に「人件費の上昇・高騰」「管理員・清掃員の人件費高騰」を理由に挙げる会社もあった。

 

採用コストもアップ

 

これらの回答理由に最低賃金の上昇に加え、人手不足の解消策として時給単価を上げるケースが含まれていると考えられる。

「給与・時給単価の上昇」「採用コストのアップ」にしても同様だ。

「協力会社からの値上げ要請」があったため、とする回答も多かった。

いわゆる「働き方改革」を理由に挙げる会社もあった。

「労働時間の短縮推進で仕事量は変わらない中、労働時間を短縮するため人員増」となる、改革に伴う「有給休暇取得制度推進のため、さらなる代行員の配置で経費が増える」、といった回答が寄せられた。

「働き方改革」が与える影響は小さくない。特に中小では、より深刻な事態に陥りがちだ。

「有給休暇取得に伴う代務員の配置」について、中小管理会社の役員は「代行スタッフを確保すること自体難しくなっている」と悩む。

代行スタッフの派遣を諦め、穴があいた分の費用を管理組合に返還したり、代行員派遣をしないことを事前に説明し理解を求める会社もある。

残業規制も負担になっている。

中小会社の役員は「これまでは基本給が少ない代わりに残業代の支払いで給与のバランスが取れていた部分がある」とぼやく。

残業代が減れば当然給与は減る。「そのため『これでは家族を養うのが厳しい』と退職してしまう社員もいる」。40~50歳代のフロント社員にみられる傾向だという。

反対に「給与を厚くして、残業代は支払わずにきた」という中小も。

「社員は理解してくれていると思うが・・・。コンプライアンス違反になりかねない」と困惑を隠せない。

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実際に管理委託費の値上げを管理組合に提案しているかどうかを尋ねた。30社中27社、全体の9割が「値上げを提案している」と答えた(グラフ③省略)。

「値上げ提案を行っていない」と答えた3社中1社は「本年度、社会情勢も踏まえ値上げのお願い。来年度以降、契約更新時に提案」する、と回答している。

グループ別ではBグループ1社、Cグループは2社が値上げ提案を行っていなかった。

委託費値上げの提案時期(グラフ④省略)。

「この1年」に提案を行った、とする回答が59.3%で最も多かった。「2~3年前」が33.3%で続く。

「それ以前」、「毎年」とする回答が各1社あった。

人手不足・人件費の高騰などが原因で、採算が合わなくなっている管理物件は少なくない。特に管理組合の要望で以前委託費の減額などに応じたケースでは「余白」がないため、赤字になりかねない。

こうした背景も考慮し、管理委託費の値上げが困難な場合どう対応しているか、また管理組合に対して管理委託契約の辞退を申し出ることがあるかについて尋ねた。

 

受け入れ困難なら 仕様変更で対応

 

管理委託費の値上げが困難な場合に管理会社が取る対応は「管理業務の仕様変更」が69.0%で最も多い(グラフ⑤省略)。選択肢の一つに「契約辞退」を挙げたのは2社しかなく、コスト面を理由にいきなり契約辞退を願い出るケースは少ない、といえそうだ。

仕様変更は、設備点検回数の削減や管理員・清掃員の勤務内容変更などで対応することが多い。要は現行の委託金額に見合った内容に業務を見直すわけだ。

業務の「レベルダウン」とも受け取れるが、現行の業務内容を「オーバースペック」と判断する管理組合もいるため、業務内容についてお互いが納得した上で合意すれば、仕様変更にマイナスのイメージを持つ必要はない、といえる。

「説得して合意を得る」「交渉を継続する」と答える会社もあった。

「経費請求」はコピー代など契約以外の業務で、これまで費用請求してこなかった「雑費」を管理組合に請求するようにする、という意味だ。

電気料金の削減などコスト削減策や管理組合の収益拡大策を提案する、と答えた会社もあった。

 

契約辞退申し出「ある」73.3%

 

「管理組合に契約辞退等の措置を取ることがあるか」の問いには30社中22社、全体の73.3%辞退を申し出ることがある、と答えた(前ページグラフ⑥省略)。

グループ別では Aが10社中9社、Bは同6社、Cは同7社。比率的にAが最も高く、9割に及んでいるが、大きな差異は見られない。

最近は、中小でも採算が合わない物件に契約辞退を申し出ることがそう珍しくはない。不採算物件でも、業務に要する手間は変わらないからだ。

働き方改革でフロント社員にこれまでのような残業を強いることはできない、といった社内事情も加わり結局、社内事情と業務受託のメリットをはかりにかけ「割に合わないと判断した物件は辞退した方が会社としてベター」(中小会社役員)と考えるようだ。

契約辞退の要因についても尋ねた。辞退する要因を三つ挙げ、当てはまる選択肢を選んでもらった(グラフ⑦省略)。契約辞退した時期についても尋ねた(グラフ⑧省略)。

最も多かったのは「管理組合の要求・注文が不合理」。「契約辞退を申し出ることがある」と答えた22社のうち19社、86.4%に及んだ。「採算が取れない」の15社(68.2%)を大きく上回っている。

ただAグループの1社は、こうした理由が発生しても「管理組合が困らないよう、コスト削減や収益拡大、収支改善に向けた提案を行うなど、管理組合に寄り添った提案を最大限実施する」と答えた。管理組合の良きパートナー、支援者でも在りたいと考える管理会社の最大限の「誠意」が見て取れる回答だ。

「管理組合の要求・注文が不合理」を選択した会社の一部に、どんな点を「不合理」と判断したか聞くと、「コンプライアンスに関わる事項を要求された」とする答えが多かった。どう喝・威圧など、管理組合役員による、フロント担当社員への「カスタマーハラスメント」を挙げた会社もあった。

「コンプライアンス-」とは、例えば法定点検の回数を減らして委託費の減額を迫る、契約書に押印しない、といった事情を指す。

管理組合が行う予定の事業について管理会社が理事会で述べた法的な注意点を、理事長が「聞かなかったことにしたい」とし、議事録への記録を拒否されたため、辞退に発展した、という回答もあった。

「カスハラ」では管理会社の業務が気にくわない、フロントが仕事ができない、などといった理由を付けて、理事長が適正な業務遂行を妨げるケースも報告されている。

自由回答で得られた契約辞退に至る要因の一部を表(ここでは下表Ⅰ)に示した。

管理委託費に関する課題や提案についても聞き、回答の一部を次ページ表(ここでは下表Ⅱ)に示した。管理会社とは立場が異なる管理組合にも、一定以上の理解が得られると思われる「悩み」も挙がっている。

 

表Ⅰ 契約辞退する際の要因

・管理委託費の値上げや収支改善策の提案に対応してもらえない場合は、契約更新を辞退するケースもある。

・コンプライアンス違反に触れる申し出が管理組合からあった(期日までに契約書を戻さない、法律上問題のある提案など)

・値上げに応じてくれなかった場合、こちらが提示する価格が他社と比べて高いのか、安いのか調べてほしいと伝えることもある

・契約にない事項や管理会社が行うべきではない事項の要請があった場合

・根拠のない減額要求

・カスタマーハラスメントがあった。営業時間外の長時間の電話や脅迫的な言葉、どう喝、呼び出しなど

・ワンルームの投資物件で修繕積立金の不足により、老朽化に対する措置が取れず、安全性が維持できない(積立金の改定を了解してもらえない)

・契約にない事項を要求された場合

・コンプライアンス違反があった(不都合な事実を聞かなかったことにしたいと打診された)

・カスタマーハラスメントがあった(フロント担当など当社の社員に対して高圧的な発言を繰り返された)

・管理するマンションが拠点からかけ離れており、支社もなく業務効率上難しくなった

 

表Ⅱ 管理委託費に関する課題や提案

・理事会や専門委員会の開催頻度に応じたフロント担当の出席費用請求が徹底できていない

・管理員の超過勤務費用の請求が徹底できていない

・現役世代が多いマンションは昨今の人手不足や働き方改革を理解しているが、高齢化マンションに理解がもらえないケースが散見される

・再委託先でも営業エリアの見直しや緊急対応の見直し、撤退などがあり、管理会社による処理が難しくなってきた

・建物の老いも進んでいるため緊急対応が毎年増加している

・区分所有者の高齢化など管理費の増額が難しい場合は、仕様変更で金額を抑えるしかない

・有給休暇5日取得などの影響

・価格競争のみに関心が集まり、引き下げがサービスの品質低下を招くことを懸念している

・成果や品質に見合った委託費の見直しが受け入れてもらえない。利益確保が困難になりつつある

・委託費の値上げは重説に関わる内容のため、非常にハードルが高いと感じている。外的要因などでの値上げや数百円単位の値上げであれば、もう少しハードルが下がった方が提案がしやすくなる。予備費が多少見込める場合は予備費を委託費・管理員給与に充当できる仕組みがあってもいいのではないか

・最低賃金が上がり続ける状況のため、2~3年ごとに値上げの提案が必要になる

・管理組合と代務員配置が必要ない契約(有給休暇5日間)を提案している

・最低賃金の上昇など、管理業業界の実情を把握していない管理組合員がいる。契約辞退となっても他社を探せば受託してくれる会社は在ると思い込んでいる

・管理組合から「他の会社で見積もを取ってみる」といった話があると、値上げの提案が怖くなる風潮がある

 

以上、マンション管理新聞第1119号より。

前号記事に引き続き、管理組合ならびに管理会社に第三者の立場で対応してきたマンション管理士として考えさせられる意味深長な内容ではあります。

 

投稿者プロフィール

福井 英樹
福井 英樹福井英樹マンション管理総合事務所 代表
マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者