マンション居住者が感染した場合、管理組合はどう対応すべきかー。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、関係者が今、こんな難問に頭を悩ませている。居住者が感染したとしても管理組合に情報が寄せられるとは限らないが、そもそも、管理組合が、そうした情報を積極的に収集し、しかるべき措置を施す必要があるのだろうか。
管理組合による情報収集について、あるマンション管理士は「管理組合が取り扱う問題ではない」と話す。
「『コロナウイルスに感染したら管理組合に申告して下さい』と住民にお願いするのは良いが、実際に申告があった場合情報を、どう取り扱うのか」
感染者の情報には氏名・居住フロア・部屋番号に加え、家族構成などの個人情報が含まれている。場合によっては入院しているのか、自宅で静養しているのかといった病状に関する情報も寄せられる可能性もある。
こうした情報を、どこまで一般に開示するのか。また理事が知り得た情報について非開示とした情報の秘匿を徹底できるのか。確かに「情報の取り扱い」に際しては難しい問題がある。
このマンション管理士は、管理組合理事には法律上『守秘義務』が課せられていない点も問題視している。
「マンション管理士や管理会社の従業員には守秘義務が課せられている。このため申告をしてもらうのなら管理会社の方が適任だ」として
いる。
◇
だが現実には管理組合が特に情報を収集していなくても「居住者が感染した」という事実を知る機会がある。
あるマンションでは「防護服姿の保健所職員らしき人がマンションに入ってきた」との情報で、図らずも居住者の感染が発覚したという。
こうしたケースではどう対応すればいいのか。
マンション管理士でもある土屋賢司弁護士はまず、管理組合の「物理的対応」について「居住者の感染を知りながら管理組合が共用部分の消毒などを行わなかったとしても、善管注意義務違反に問われることはないと思う」と解説する。
居住者の感染を受けて管理組合が何らかの対応策を講じなければならない「義務」はない、という考えだ。
ただし、感染者が出た、という情報が広まると「管理組合が何もしないというのはおかしい」と指摘される可能性もある。
この指摘に対応する場合共用部分の消毒を行うなどの措置が考えれる。土屋弁護士によると「居住者は感染しましたので共用部分の消毒を行います」と必要最低限の情報だけを開示し、作業を行ったマンションがある。
プライバシー侵害にも 難しい情報の取り扱い
「仮に『誰が感染したのか』といった情報を知ってしまったとしても理事会には情報を開示する義務も権利もない。人権侵害にもつながる情報を開示することは絶対にできない」
感染者の情報については、同じくマンション管理士の香川希理弁護士も「誰が感染した、という情報を開示するのはプライバシー保護などの観点から、行うべきでない」と解説する。
感染者がどのフロアに住んでいるのか、といった情報を得られた場合、情報の漏えいを防ぐ意味でも「共用部分の消毒を行う際は感染者の入居フロアだけでなく、全てのフロアを対象にするといい」とアドバイスを送る。
しかし他の居住者からすれば「誰が感染したのか」は気になる。
「感染者が同じフロアの人だったら自分の感染リスクは高い。理事が情報を開示しないせいで万一自分が感染したら理事はどう責任を取るのか」などと情報の開示を求めてくる居住者もいるかもしれない。
その一方、感染した事実を公にしてほしくない居住者からすれば管理組合理事が個人情報を漏らした場合、それはそれで理事の責任が追及されかねない。
土屋弁護士は「理事に公表権限はない。応じる必要はない」、香川弁護士も同様の考えだ。
香川弁護士は「居住者が感染した場合、周囲への気遣いから管理会社にその旨連絡をくれる人がいる」と話す。こうしたケースは「どこまで情報を開示してよいか本人や家族に確認ができ管理組合も情報開示範囲を設定できる」。
また香川弁護士は「ほかの居住者が万一感染しても、法廷で『情報を開示しなかった管理組合のせいで自分が感染した』ことを証明するのは相当ハードルが高い」と裁判上のポイントも解説してくれた。
むしろ感染者が「理事によって情報を漏らされた」とプライバシー侵害を主張するケースの方が立証は、はるかに楽だという。
投稿者プロフィール
- マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者
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