地上20階以上の集合住宅をタワーマンションという。最近では40階以上のマンションが多くなった。20階建てだと低くさえ思える。

タワーマンションのメリットは、高層階からの眺望がいいこと。私が考えるには、それくらいしかない。

デメリットをあげればキリがない。まず、管理費と修繕積立金が通常の板状型マンションに比べて高くなる。電気が止まると水道も使えなくなる。もちろんエレベーターも使えないので、地震などには生活機能面で恐ろしく脆弱である。住戸内の住人が倒れた場合、階数が高いほど救急隊が駆けつけるのも、救急車まで搬送するのも時間がかかるので、心肺停止の場合はまず蘇生できない。地震や台風のときによく揺れる。高層階では洗濯物を外に干せない。構造にもよるが、夏場は日照でかなり暑くなる。隣戸とのあいだは遮音性の低い乾式壁で仕切られているので、クシャミの音まで聞こえてしまう。小さな子どもは外で遊ばなくなるので、自然と触れ合う機会がなくなる。それが、タワーの子どもは偏差値が低い原因だと主張している教育の専門家もいる。また、高層階に住むほ妊婦ほど、流産の危険性が高いという実証データもある等々、デメリットをあげればキリがなくなる。

それでも、日本人はタワーマンションが大好きだ。作ればたいてい売れる。儲かるからマンションデベロッパーは喜んでタワーマンションを作る。それが現状。

「タワーマンションは廃墟化しやすいのか?」

じつは、そうとは限らない。前述のように、マンションが廃墟化するにはふたつのステップを踏むことになる。第一は「資産価値の喪失」。

タワーマンションは、概ね都心の便利な場所に立地する。なかには地方都市の田んぼの真ん中に建っているタワーマンションもあるようだが、そういう例外を除いたほとんどのタワーマンションは都心立地だ。マンションの価値は九割が立地で決まる。だから、ほんの一部の例外を除いて、タワーマンションの住戸が500万円を下回るようなことは起こり得ないと思う。

その点、タワーマンションが廃墟化する可能性は低い。

 

しかし、心配なこともある。

先に、鉄筋コンクリート造の建物が何年もつのか、日本人は壮大な実験をしていると書いた。これはタワーマンションも同じ。むしろタワーマンションのほうが、通常の板状型マンションに比べて実験を始めてからの年数が少ない。

タワーマンションが本格的に建ち始めて、まだ30年ちょっとしか経っていない。規制が緩和されてニョキニョキと量産されたのは2000年ごろから。

今後、ここ20年弱で量産されたタワーマンションが、次々に大規模修繕工事の適齢期を迎える。

気になることがある。まず、タワーマンションと板状型マンションでは建築工法が多少異なっている点である。

19階以下の板状型マンションは、柱や床、壁などの躯体は鉄筋コンクリートである。しかし、タワーマンションの場合は荷重を軽くするため、柱と床、梁は鉄筋コンクリートだが、外壁はALCパネルだ(Aoutclaved  Lightweight aerated Concrete 高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート)だ。

そして、このALCパネルと躯体部分、あるいはサッシュなどとのあいだにはシーリング剤が使われている。接着兼緩衝材的な役割を果たしている。このシーリング剤の耐用年数が、およそ15年と言われている。つまり15年に一度くらいは、劣化したシーリング剤を修繕しなければ、外部からの浸水を防げないのだ。

タワーマンションの上層階部は、雨風が横殴りに吹き付ける。だから、シーリング剤の劣化も着実に進むはずだ。

築数十年のタワーマンションを何物件か取材したことがあるが、サッシュとALCパネルの接合部分からの雨漏りは現実的に起こっている。

通常の板状型マンションは、施工精度が高ければ外壁の補修工事が築30年以上不要、ということはありえるが、タワーマンションは15年ごとに延々と外壁の補修工事を継続しなければならないのだ。これは考えてみれば区分所有者にとって大きな負担だ。

そして、タワーマンションの大規模修繕工事については、そのノウハウがまだ確立したとは言い難い。一棟一棟、手探りでおこなっているようなところがある。

まず、15階以上は足場を組めない。だから、屋上のクレーンから作業ゴンドラを吊るすか、壁にレールを取りつけて足場を上下に移動させるなどの工法がおこなわれている。

いずれのしても、風に弱い。風速10m以上で作業は中止。

さらに一階部分の作業をおこなうのに約1カ月を要する。

タワーマンションは、前述のとおり躯体にALCパネルを嵌めこみながら作っていく。通常のマンションよりも、建築スピードは速い。一カ月で二層作ることが出来る。つまり、大規模修繕工事は、建築スピードの二倍の時間がかかる、ということだ。なんとも歪な現実ではないか。

40階建て以上のタワーマンションの場合、大規模修繕工事の費用は戸当たり200万円を超える。他の修繕工事や災害時の損傷などにも備えなければならないので、月々の負担額は約二万円。これに管理費が加わるので、タワーマンションの管理費と修繕積立金、その他の維持費用を合わせると、月額5万円を超える場合もめずらしくないだろう。

また、大規模修繕工事は15年に一度だが、建物が老朽化すると補修すべき部分も多くなる。回を重ねるごとに大規模修繕工事の費用は膨らむはずだ。

三回目の大規模修繕工事を控えた築45年ごろには、戸当たりの管理費等の負担は月々10万円近くになっている可能性もある。

タワーマンション好きは、見栄っ張りが多い。さらには派手好きだ。これはマンション業界の定説だ。

現状、築30年を超えるタワーマンションはほとんどない。しかし、あと15年後には、続々と築30年モノが登場してくる。そうしたときに、見栄っ張りで派手好きなタワマン愛好者は、そういう老朽タワーに高いお金を出すだろうか。

あるいは築60年になったタワーマンションはどうなるのか・・・・。

はたまた大きな地震が東京を襲い、電力の供給が1週間も止まると、タワーマンションの高層階はかなり悲惨なことになる。そんなことになれば、いっせいに「タワマン離れが」が起こるかもしれない。

じつのところタワーマンションは、建造物としても将来の資産性を考えても、かなり脆弱な一面を持っている。もしかしたら、築60年ごろには、板状型マンションよりも廃墟化しやすい住形態なのかもしれない。

「すべてのマンションは廃墟になる」榊 淳司著 イースト新書より抜粋。

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投稿者プロフィール

福井 英樹
福井 英樹福井英樹マンション管理総合事務所 代表
マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者