みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所スタッフでマンション管理士・防災士の飯田です。
地震や災害が頻発し、マンションでも災害に備えた準備をしなければ、と思われる方も多いことでしょう。既に飲料水などの備蓄を家庭でしっかりされている住戸もあると思います。
その一方で、マンション全体の防災活動の取り組みはどうでしょうか。災害はいつ発生するかわかりません。いつかはやらなければと、わかっていても、目先の管理や様々な案件に追われて、ついつい先送りしてしまう組合も多いのではないでしょうか。
そんな実態を踏まえながら、マンションで防災活動に取り組みする管理組合での実例から「地震への対応」と「風水害への対応」について2回で紹介していきます。
マンションでの防災活動のすゝめ
地震への対応編
1.どんな地震が来るのか?
東日本大震災から11年あまり。毎年、3月11日が近づくと連日報道されてはいますが、それも喉元過ぎればで、多くのマンション居住者の意識の中で地震を忘れかけているのではないでしょうか。
しかし、この間に、熊本地震、大阪北部地震、北海道胆振地震など大規模な地震災害は続いています。
そのような大きな地震が起きると、一時的には地震への備えを意識しても、歳月の流れとともに気持ちは緩み、「まあいいか」と先送りにしてしまいがちです。
しかしながら30年以内に70%の確率で直下型地震が発生すると言われていることは皆さんご承知のとおりです。
大規模な地震は必ず発生すると考え、意識することから始める必要があります。
首都直下地震の被害想定の見直し 《東京都》
東京都防災会議から「東京都の新たな被害想定」(令和4年5月25日)が発表されました。
これは平成25年に発表されたシミュレーションの10年ぶりの見直しになります。
近年、建物の耐震化が進んだこともあって、前回の想定より、被害が小さく想定されています。
とは言え、公表された都心南部直下地震(マグニチュード7.3)の想定では建物の被害約194,000棟、死者6,178人と、決して小さいものではありません(表1参照)。
①都心南部直下地震 | ②多摩東部直下地震 | ③大正関東地震 | ④立川断層帯地震 | |
---|---|---|---|---|
建物被害 | 194,431棟 | 161,516棟 | 54,962棟 | 51,928棟 |
死者 | 6,148人 | 4,986人 | 1,777人 | 1,490人 |
負傷者 | 93,435人 | 81,609人 | 38,746人 | 19,229人 |
避難者 | 約453万人 | 約276万人 | 約151万人 | 約59万人 |
電力 (停電率) |
11.9% | 9.3% | 4.0% | 2.2% |
固定電話 (不通率) |
4.0% | 2.9% | 0.9% | 0.9% |
上水道 (断水率) |
26.4% | 25.8% | 15.7% | 4.7% |
下水道 (管きょ被害率) |
4.0% | 4.3% | 2.9% | 2.0% |
ガス (低圧ガス供給停止率) |
24.3% | 12.5% | 2.8% | 2.8% |
東京都以外の地震被害想定については、以下をご参照ください。
2.災害時、マンションで何が起こる...?
耐震基準が昭和56年(1981年)に変わったことはご存知の方も多いことでしょう。
それ以前に建てられた旧耐震基準の耐震性は弱く、大規模地震の際に大きな被害を受けることはお分かりのとおりです(写真①参照)。
その一方で、新耐震基準だからと言って建物に被害が生じないわけではありません。
人の生命身体に被害がないというだけで、せん断破壊や給水設備の損傷など大きな被害が生じます(写真②参照)。
さらには揺れに強い免震構造だからと言っても、高層階での揺れが完全になくなるわけではありません。家具の転倒などにより被害が出るおそれがあるので、油断は禁物です。
3.マンションでの防災活動への取り組み
マンション総合調査(平成30年版)によれば、マンションで自主防災組織を組織している割合はわずか16.4%(6組合に1組合程度)に過ぎません(下グラフ参照)。
また、何もしていない割合が23.4%(約4組合に1組合)にのぼります。
このように、マンションでの積極的な取り組みが少ないのには、理由があります。
地震がいつ起きるかわからず、先送りがちになること、それとともに災害が自分たちに降りかかることに無関心な区分所有者が多いことからですが、これらを解決するには問題に気付いた管理組合が、積極的に防災活動を始めるしかないでしょう。
4.防災活動のために、何から手をつけるか?
1 組織づくり
まずは何といっても組織づくりです。
活動を継続するために旗を振る人がいなければ始まりません。
組織をこれから作るのであれば、「理事会主導」型、「防災委員会」型、「自主防災会」型と大きく3つのパターンが考えられます(表2参照)。
それぞれに特徴や一長一短がありますが、防災活動を継続させていくことを前提に、マンション(管理組合)の実状に合わせて選択します。
「防災に関心を持つ居住者が少なくて」という悩みを抱える組合も多くありますが、最初から大きな活動はできなくてもよいのです。
有志数人からでも始めるところに意義があります。まずは一歩を踏み出しましょう!
理事会主導型 | 防災委員会型 | 自主防災会型 | |
---|---|---|---|
特徴 | |||
文字通り理事会が中心になって活動 | 理事会の下部組織としての委員会として位置付けて活動 | 独立した組織として管理組合の防災業務を代行する形で活動 | |
適した規模 | 小規模マンション | 規模を問わず標準的 | 比較的大規模なマンション 防災に関心があるリーダーの下で活動 |
メリット |
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デメリット (課題) |
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2 組織に関連して整備すること
組織を立ち上げるのであれば、その組織と活動の根拠を整備します。
具体的に言えば、根拠となる規約・細則の整備や防災活動のための費用の予算計上などですが、こうした活動を始める前に、組合員の合意形成を行い、管理組合のなかで理解を得ておくことは重要です。
防災活動とは、居住者のためであり、組合員でない居住者のために費用を使うことに抵抗がある方がいるかもしれません。
しかし、標準管理規約では管理組合の業務の中に「防災」に関する業務が規定されています(表3参照)。
また、管理費の用途にも「防災」の業務に要する費用も支出できるようになっています。
さらに、「自主防災会型」として別組織を作る場合でも、管理組合がマンションの「防災」に関する業務を「自主防災会」に委任し、その費用を管理費から支出することを総会で承認を取っておくことも可能です。
条項 | 内容抜粋 |
---|---|
第32条第1項 第12号 | マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務 |
第27条第1項 第11号 | その他第32条に定める(注釈:管理組合の)業務に要する費用 |
5.防災活動のキホン
1 マンションでの避難の大原則
「在宅避難」が基本
マンション住民が被災した場合、マンションが倒壊したり、火災で焼失したりしない限りは、マンションに留まって避難する「在宅避難」が基本です。
プライバシーがなく、劣悪な環境が想定される避難所よりも、マンション内の自室に留まることの方が、安心して避難と生活が継続できるからです。
エレベーターが停止するなど不便な生活があったとしても、避難所と比べれば、そのメリットは明らかでしょう。
2 マンションでの災害を想定したシミュレーション
自助と共助に分けて考える
防災組織が立ち上がったら、いよいよ活動開始です。
実際に首都直下地震が発生したことを想定し、大規模地震発生の際にマンションで何が起こるか、どの様な被害が発生するかなどをシミュレーションしましょう。
シミュレーションする際は、居住者がするべきこと(自助)とマンション全体でするべきこと(共助)に分けて考えます。
また、できれば参加型のワークショップ形式での実施が望ましいです。
ワークショップは、老若男女に広く呼び掛ける
ワークショップを実施する際は、一部の人だけでするのではなく、一つのイベントとして居住者に広く呼び掛けることが重要です。
広く呼び掛けることで、居住者の防災への関心を高めるとともに、管理組合で防災活動を行っていることを居住者にアピールすることができます。
また、参加者は大人だけでなく、小中学生もOKです。
親子で参加することで、子供の視点で問題を見つけることもできるし、何といってもワークショップの輪が広がります。
居住者の参加を得ながら、ワークショップを実施。マンションでの災害時を想定し、共有します。
3 防災計画(災害時対応マニュアル)づくり
ワークショップで出された想定、それに対する意見やアイデアをベースに、時系列で実際に何をするかを話し合い、それを集約化してマニュアルにまとめていきます。
また、まとめていく際は居住者がするべきこと(自助)とマンション全体でするべきこと(共助)に分けて整理することがポイントです。
市販や行政での作成、管理会社作成のマニュアルはNG
防災マニュアル的なものは広く社会に出回っています。
どれももっともらしく書かれていますが、汎用的なマニュアルでは実際の災害時にあなたのマンションならではのことがわかりません。
一例を挙げれば、災害の際の拠点の一つになる管理室(管理員室)の鍵を誰が保管するか、あらかじめ決めておかないと災害時に誰も鍵を開けられず、何も対応できないということになってしまいます。
参考にすることはあっても、汎用的なマニュアルをそっくりそのまま、マンションのマニュアルにすることは危険です。
4 災害対策本部
大規模災害時、管理会社は頼れない
地震が発生した場合、休日や深夜など時間帯によっては、管理員(管理会社)の援助を得られないことが想定されます。
ある意味で、管理会社も被災するため、仕方のないことですが、災害が発生した時にマンションにいる居住者が主体的に行動しなければなりません。
大規模災害時は、居住者以外には頼れないことをご理解ください。
同居家族の安否確認などは各居住者が自助としてしなければなりませんが、マンション全体のこと(例えば、建物の被害、エレベーターの停止、停電や断水など)には誰かが判断したり、対応する必要が出てきます。
その役割を担うのが「災害対策本部」です。
「災害対策本部」の役割や構成、災害時の立ち上げ方やタイミングなどを決め、マニュアルに加えておきます。
客観的な基準を決めておく
「災害対策本部」をどのタイミングで設置するかも重要です。
同じ建物でもフロアによって揺れ方が異なるなど人によって揺れの感じ方が違います。
そのため、誰にも共通な基準(例えば、「震度5強以上の場合に設置する」)など客観的な基準を決めておく必要があります。
5 安否確認
家族の安否確認は同居の家族で行うのが当然ですが、同じマンションに住む居住者として、他の住戸の居住者が室内で無事にいるのか、家具の下敷きになって救助する必要があるのかなど、マンション内で命に関わる最悪の事態を引き起こさないために、「安否確認」することが望まれます。
余計なお世話かもしれませんが、これにより命が救えるなら、マンションに住む者にとって何ものにも代えられない安心感に繋がることでしょう。
特に単身で住む高齢者など、日ごろから助け合う体制を作っておくと安心です。
安否確認のための「無事ですシート」
一定以上の震度の地震が起きた場合に、居住者が無事であることを知らせるために、マグネットを各住戸の扉の外側に掲出し、災害対策本部で安否を確認する方法が一般的です。
6 備蓄計画の実行
災害時対応マニュアルを作成していくと、災害時に何が必要になるかが見えてきます。
災害時に慌てて準備しようとしても間に合いません。
平常時から備蓄するものを選定し、確実に備蓄することが重要です。
その際、飲料水や食料などは各住戸(自助)で備蓄し、管理組合(防災会など)は各住戸で備蓄できない資器材(共助)を備蓄するのが基本です。
自助と共助の役割分担を居住者に啓発することも防災組織の大切な役割です。
【各住戸】自助としての備蓄 |
【管理組合等】共助としての備蓄 |
---|---|
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|
7 防災訓練の実行
マニュアルの準備ができたら、防災訓練を行いましょう。
マニュアルはあくまでも机上のものですが、実地で体験することで不具合や不足するものが見えてきます。訓練で不足する事項が明らかになったら、それらをマニュアルに追記して、マニュアルの精度を上げていきます。
また防災訓練を実施する際は、居住者をできるだけ巻き込みながら、実施していくことが重要です。居住者の防災意識を高めることはもちろんのこと、居住者間のコミュニティ意識を高めていく効果もあります。
消防訓練と防災訓練
マンションでは消防法に基づき、消火、通報、避難の「消防訓練」の実施が義務付けられています。
一方の「防災訓練」は災害時にマニュアルに沿った対応ができるか確認するためのものです。
目的は異なりますが、どちらもマンションで欠かせない訓練です。
防災訓練メニューあれこれ
マニュアルを作っただけでは、実際の災害時に対応できないと言っても過言ではありません。マニュアル通りに動けるのか、十分な対応ができるのか、不足する備蓄品はないかなど防災訓練として体験することが重要です。
せっかく居住者が集まるのであれば、遊びやお祭り的な要素を加え、居住者が楽しめるイベントにできれば、コミュニティを醸成するよい機会にもなるでしょう。
さいごに
今回は「地震への対応編」として基本的な対応についてお伝えしましたが、いかがだったでしょうか。
これから始めたいとお考えの方は、ぜひ管理組合のなかで共有していただきたいと思います。小さな一歩でも踏み出すきっかけになれば幸いです。
次回は、「風水害への対応」ついてお伝えします。
◇著者プロフィール
飯田勝啓
マンション管理士、防災士
災害時のマンションの被災状況を調査するとともに、首都直下地震や風水害への管理組合での対応を啓発するなど、マンションにおける防災活動に取り組んでいる。
投稿者プロフィール
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プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。
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