おととし4月の熊本地震から間もなく2年。熊本市内の被災マンションでは、夏ごろまでに事業完了や決議を目指すなど、敷地の売却や再建に向けた動きが続いている。公費解体が受理された15棟(11件)のうち、状況が把握できたマンションの現況をリポートする。
公費解体が受理されたマンション(15棟)の現況を下表に示した。複数棟で構成されているマンションがあるため、マンション数は11件になる。
熊本市によれば15棟中、解体が完了しているのは10棟。解体中が5棟となっている。
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被災マンション法は使わず、全員同意による敷地の売却を行う東区の「スカイハイツ健軍東」。公費解体は昨年12月末に完了している。
関係者によれば、任意団体の敷地共有者組合は4月21日の集会で売却先を正式に決める。同日、修繕積立金や全損だった地震保険など管理組合財産を分配する議案も承認する予定だ。
買受先の候補者の入札を2月28日に実施した。入札は公費解体対象外のくいを残した状態で買い取ることを条件にした。基礎や外構は同月26日に撤去工事が完了しており、費用は管理組合資金から拠出した。
敷地の売却は、買い受け先と敷地共有者が個別に売買契約をする予定。5月中旬に登記相談会を開催し、敷地共有者に司法書士への委任状やマンションの権利書などを提出してもらい、6月に売買契約会を開くことを考えている。
現時点で敷地共有者は38人。一部で抵当権が設定されている。
今年1月の集会で全員同意で地元の住宅会社に敷地を売却することを決めた西区の1棟(築40年、36戸)も、被災マンション法は使わずに事業を進めている。
任意団体の敷地共有者会の管理者によれば、3月28日に公費解体が終了。買い受け先が基礎の撤去とくいの一部撤去を条件にしているため、業者に見積もりを依頼している。
撤去費用は地震保険や修繕積立金を充てる。
売却の手続きは、敷地共有者から契約関係を管理者に委任する旨の委任状などを送付してもらい、登記などの実務を司法書士が行うことにしている。委任状などは3月までにそろった。4月に2回に分けて司法書士との面談やマンションの権利書を提出してもらう場を設ける予定だ。
抵当権が設定されているのは数件で金融機関と交渉している。事業の完了は早ければ6月上旬とみている。
被災マンション法を使う予定でいる東区の1棟(築27年、37戸)。関係者によれば、公費解体中で、完了は6月にずれ込むとみている。マンションを再建する方向で動いており、4月8日の敷地共有者の集会で事業に参加しない場合に土地の鑑定評価額を基準に買い取ることを提案した。
敷地売却はくいや基礎の撤去費用が7000万円程かかり、仮に買い受け先が見つかっても、売却代金から撤去費用を値引きする可能性があるため敷地共有者への配分額が減る懸念があるという。
現在、優良建築物等整備事業の利用に向けて熊本市と打ち合わせを行っているが、再建も建設コストの坪単価が上がっているとして、事業の参加者がどの程度になるか不安もあるという。
7月ごろに同法に基づく再建決議を行いたい考えだ。
同法の敷地売却を目指している西区の第2京町台ハイツ(築44年、店舗を含めて41戸)。「一般社団法人第2京町台ハイツ敷地共有者の会」の松本一代表理事によれば、当初3月末に完了予定だった公費解体が、4月末か5月初旬になる。
くいは残したまま売ることを考えており「くい付きで買いたいと言ってきている大手の事業者がいる」と話す。
ただ、敷地共有者が高齢化しており、仮に他界して相続人が増えると5分の4以上の敷地売却決議の要件をクリアできるかを不安視している、
松本代表理事は「来年10月の被災マンション法の適用期限までに手続きを終えなければ、100%の同意を取ることになるから、さらに大変になる」と話している。
同様に敷地売却事業等を目指す中央区の「メゾン本荘」(築44年、店舗を含めて45戸)。関係者によれば、1月中旬に公費解体に着手した。当初、隣接する駐車場を借りて重機を利用することを調整していたが、結局借りられず着手が遅れた。
熊本市によれば、公費解体の申請期限当日に駆け込みで申請した西区の1棟(55戸)が2月末に着手した。
この1棟の進路は不明だ。
公費解体マンションの現状(15棟・件数ベースで11件)
所在地 公費解体の現状 備考
中央区 完了 立町ハイツとみられ、同マンションは敷地を売却済み
中央区 不明 ※解体に着手しているが解体が完了したかどうかは不明
中央区 不明 ※ 同上
中央区 解体中 メゾン本荘
西 区 完了 上熊本ハイツ(5棟で構成)。同マンションは建て替え
決議済み
西 区 完了 上熊本永江マンション
西 区 解体中 第2京町台ハイツ
西 区 完了 3月28日に解体が終了
西 区 解体中 2月末に解体に着手
東 区 完了 スカイハイツ健軍東。同マンションは敷地売却を進行中
東 区 解体中
以上、マンション管理新聞第1069(2018年4月15日)号より、抜粋。
このように震災復興時でさえ、復興及び建て替えの困難さの現実を物語っています。平常時のマンションの建て替えは余程の好条件が揃わなければ、現実的には不可能です。
いずれにしても、大地震は必ずやってきます。当該熊本地震の例のように、全倒壊にいたらずとも、防災対策は準備しておかなければなりません。避難訓練等を定期的に開催し、防災マニュアルを周到に整備している管理組合も増えてきています。ぜひ防災マニュアルの作成をしておかれることをお勧めいたします。
投稿者プロフィール
- マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者
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