想起に積立金を「段階増額」から「均等」式に変更 施工業者との「信頼関係構築」が成功ポイント
タワーマンションの大規模修繕工事問題を憂う報道をよく見かける。資金不足、住民合意形成や超高層ゆえの施工の困難さなどへの懸念がその背景にある。神奈川県相模原市のJR橋本駅徒歩2分の「ザ・ハシモトタワー」(築13年、33階建て、228戸)はこの10月末竣工予定で、第1回の大規模修繕工事の真っただ中にある。さまざまな「憂い」をどう乗り越えたのか、同マンションを訪ねた。
施工はカシワバラコーポレーション
「マンション管理も会社と同じで経営の意識が必要」
ザ・ハシモトタワーの管理組合はこの意識を重要視して運営してきた。
長期修繕計画(以下長計)と資金計画に端的にその意識が反映されている。
タワーマンションの多くが売りやすさを優先して新築時は修繕積立金を「段階増額方式」に設定している。
将来の値上げを決めていても、住民の反対から予定通りに引き上げられていないマンションも決して少なくない。資金不足に陥る要因となっている。
その点、同マンションの管理組合は入居後3年目から2年かけて長計と30年間の資金計画を作成、修繕積立金をそれまでの「段階増額方式」から「均等積立方式」に変更した。一定の人件費や建築材料の値上げを予想分もカバーした。
資金確保のために管理費の見直しも徹底して行ったが、ギリギリの状態で余力がなかったことから、積立金の値上げは28%とした。この結果「2回目の大規模修繕工事資金まで概ね確保した」。
この早期の「均等積立方式」への変更が大規模修繕工事成功のポイントといえる。同マンションの場合、修繕積立金を5年ごとに20%値上げする「段階増額方式」で売り出された。同方式だと2回目のときの月額の修繕積立金は新築時の約3倍となる計算だ。果たして可能なのか。支払い困窮者が続出して、大規模修繕工事が立ち行かなくなるのでは?
議論に議論を重ねた。理事会や委員会などの議事録を掲示、配布、そして住民説明会の開催など情報の共有を徹底し、透明性を図り、丁寧な対応に努めた。その結果、「均等積立方式」への変更に至った。
「高度成長期ならいざ知らず、売らんが為に修繕積立金を抑えて売ることは許される時代ではない」とデベロッパーの販売姿勢にも疑問を呈する。
大規模修繕工事の実施にあたって、資金対策とおもに、管理組合が重要視したのが「施工業者の選定」だ。
「タワーマンションの大規模修繕工事の施工実績」など基準を決め、公募で選定。特に重要視したのが「現場体制」だ。「228戸ともなると、中には非協力的な住民もいらっしゃる。クレームも入る。各戸の個別対応も必要になる。どれだけ迅速に適切に対応してくれるかに注視した」「職人さんにどれだけ気持ちよく仕事していただけるか。そのために施工業者と信頼関係を構築できるか」
その眼鏡にかなったのがカシワバラコーポレーション(本社東京、柏原伸介社長、以下カシワバラ)だった。現場常駐人数が他社より多く、そして「仮設足場」計画に秀でていた。
「施工業者との信頼関係構築」の点では、契約から工事着工までの期間の長さが大きな利点となった。一般的に3カ月が多いところ、同現場は10カ月だった。駅近の建物のため、安全性や近隣対策等から十分な準備期間を設けたためだ。その期間にさまざまな話し合いや折衝ができ、「着工前に信頼関係が構築できた」と管理組合は話す。
「足場計画」の見直しもその表れだ。北側の建物構造からゴンドラとくさび緊結式システム足場併用での計画だった。この併用式にはアクセスの点で難点があり、カシバラからの提案で、2階建て連結式ゴンドラの採用となった。同社の超高層プロジェクト委員会での検討の結果だ。
写真(略)のように、建物の外周に2階建てのゴンドラゲージを連結した回廊状に設置するシステムだ。壁つなぎで固定されているため、揺れや風に強い。建物外周をケージ内で自由に移動して作業できる作業性に優れているとともに、最上階から2フロアごとに工事が進められるため、2フロア以外の他のフロアの住民にとっては煩わしさがなく、日常と変わらない生活が可能となった。
バルコニーを短期間で開放、負担軽減
管理組合はこの提案を「各戸バルコニーが短期間で開放された。住民負担が軽減された」と高く評価。加えて、「今後のタワーマンションの主流になると思う」と語る。
昨年10月1日着工、この10月末竣工の工期通りにほぼ終える。信頼関係構築のたまものといえる。改修工事は施主の管理組合と施工業者の共同作業。住民対応も工事業者が表に出ると「なぜお前らに言われなければいけないんだ」と角が立つ。
共同での対応が工期予定通りに進んだ要因といえよう。
大規模修繕工事時期を迎えるタワーマンションの管理組合にとって、多くの点で参考になるに違いない。
カシワバラコーポレーション
超高層マンション(20階以上)
大規模修繕工事の元請け実績(2020年8月末)
関東圏 18件(内3件は施工中)
中部圏 1件
近畿圏 8件(内1件は施工中)
九州圏 1件
合計 28件
以上、マンション管理新聞第1148号より。
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投稿者プロフィール
- マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者
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