こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

長期修繕計画については、過去にも「マンションの長期修繕計画見直しのポイント 修繕積立金の目安・周期他」等で何度か取り上げて書いておりますが、依然として誤解等が多いと感じています。

この春から新たに理事になった方もいらっしゃると思いますので、今回から2回に分けて、最近の長期修繕計画書の傾向なども含め、改めて長期修繕計画についてご紹介していきたいと思います。
なお、本記事では、築年数が経過(15年以上)したマンションにおいて見直しを行うという前提で書いておりますので、その前提でお読みいただければと思います。

1.長期修繕計画の作成状況

国土交通省が実施した平成30年度マンション総合調査では、自分のマンションには長期修繕計画が備わっていると回答した管理組合は90.9%です。

【グラフ】長期修繕計画の作成・未作成の割合

管理組合が専門業者に依頼してかなりのコストをかけて作成したものから、管理会社が無料で作成してくれたものまで様々だと思いますが、多くの管理組合で長期修繕計画が整備されていることが分かります。

ところが、私が管理組合運営のお手伝いをした限りにおいて、長期修繕計画の意義や運用方法に関しては、意外と多くの管理組合が理解していないと感じています。
そもそも、自分のマンションに長期修繕計画があることをご存じない区分所有者の方も結構いらっしゃいました。

しかし、輪番制で運営される管理組合においてそうしたことは何ら不思議なことではありません。
さらに長期修繕計画の細部まで熟知している方となれば、一部のごく熱心な理事や修繕委員会の方々以外、ほとんどいないのが現実ではないでしょうか。

そうした背景もふまえ、今回は、改めて長期修繕計画の意義や早めに検討すべき内容等をご紹介していきたいと思います。

2.長期修繕計画がないとどうなるのか

行き当たりばったりの修繕を実施してしまう

適正な長期修繕計画書には、向こう30年程度を見据えたうえでそのマンションの適正な維持管理に必要な「工事項目」「概算工事費用」「工事実施時期」「資金計画等」が記載されています。

前述の通り、平成30年度マンション総合調査によれば、長期修繕計画を作成している管理組合の割合は約90%に上ります。
ところが、同調査の「計画期間25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定している割合」になると、53.6%に低下してしまいます

【グラフ】25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定している割合

長期修繕計画がないと、あるいは短期の修繕計画しかないと、例えば管理会社から、

「エレベーターの更新をしたらどうですか。耐用年数の25年を超えていますし、この機種は既に製造中止になっています。また法律で定められた部品の保存期間も終了しています。最近は省エネで地震対策も完ぺきな最新型の機種がありますよ。それに現在の修繕積立金の残高は●●円ありますから、ここで2千万円程度使ってもまだ残りますよ。」

などといわれて工事を実施してしまうことが典型的な事例です。

この話を聞いて「そんなバカな」と思われる方々も少なからずいらっしゃると思いますが、実はこんな事例はいくらでもあるのです。

決して管理会社の提案が悪いといっているわけではありませんが、管理会社にも事情があるのでしょうか、時々びっくりする提案をしてくることがあります。
過去に私がお世話になった管理組合の事例においても、思わず耳を疑いたくなる工事を実施している管理組合が結構ありました。優先順位や今後の資金計画を考えないで、高額な修繕工事を実施しているのです
その典型が、エレベーターの更新、電気幹線の張替え、給水竪管の更新、機械式駐車場の更新等です

これらの工事の中には、いつかは必ず実施しなければならない大切な工事もあります。
ですからやってはいけませんよといっているのではありませんが、優先順位(必要性)と今後の資金計画を考えないで実施してしまうと、その後本当に必要な工事を行わなければならないときになって、資金不足を理由に、管理組合内での合意形成が得られなくなったりします。
そうなるとマンションの資産価値の維持にも影響が出てきます。

高額な修繕工事の計画が無視されてしまう

【イラスト】アルミサッシ代表的な事例は、「アルミサッシュ(共用部分)の更新」です
ご存知の方も多いと思いますが、アルミサッシュの更新には高額な費用(数十万円〜百万円程度)がかかります。耐用年数は35年前後ですが、この工事の実施については、日頃から管理組合で検討をしておく必要があります。

アルミサッシュ更新に関する方針例

  1. 一定の時期に管理組合で全数の更新工事を実施する。
  2. 管理組合で実施するには負担が大きいので、共用部分ではあるが、一定の条件下で個人での実施を認める。
  3. 定期的に部品交換を管理組合で実施し、極力延命を図る。

などがありますが、どの案を採用するかによって工事費用(資金)が大きく変わりますので、本来ならば管理組合で十分に議論を重ねたうえで、その方針をきちんと長期修繕計画に反映させておくべきなのです

しかし、長期修繕計画がないと、そんな面倒くさいことを検討することはできず、結局は議論されないままダラダラと年数だけが経ってしまい、気が付いたときは「●●号室の人は、自分で勝手にやったみたいだ。」とか、「サッシュの動きが重たくなってどうしようもないのだけれど、どうしたらいいの?」などの声が聞こえてくるようになります。
管理組合としてはこのような状態になってから対応しようとしても、適正な対応ができない場合があります。

修繕積立金の値上ができず、いずれ資金不足に陥る

【イラスト】修繕積立金が不足して青ざめる人マンションを適正に維持にするには、管理費にしても修繕積立金にしても、それなりの費用負担を伴います。
無駄遣いをしないで節約することと、必要なお金をきちんと使うことは別に考えなければなりません

戸建て住宅とは違い、合意形成が難しいマンションの場合は、日頃から適正な修繕積立金を徴収する必要があり、更にマンションが直面する事情や社会情勢の変化等に応じてその徴収額は改定(値上げ)していかなければなりません。
しかし問題は、値上額の妥当性をいかにして区分所有者に理解していただくかです。

3.長期修繕計画の意義

長期修繕計画の持つ意義は、以下3つに集約されます。

長期修繕計画の意義

  1. マンションの適正な維持・管理に必要な修繕計画と資金計画を明確にし、予めそれを区分所有者に周知する
  2. 「1」により、多額の費用を伴う大規模修繕工事等の合意形成をやりやすくする
  3. 「1」により、適正な額の修繕積立金を算出する根拠資料とする

残念ながら、心血を注いで作成した長期修繕計画を「見たことがない」という方もいらっしゃいますが、、、作成した長期修繕計画は、きちんと配布して周知〜合意を得ることが非常に重要です。

また、適正な修繕計画であることが前提になりますが、前述の通り、修繕積立金の値上げが必要になった際にとても重要なポイントになるのが「3」だと感じています

そして、適正な修繕計画であるためには、長期修繕計画を定期的(5〜6年)に見直して、修繕積立金の徴収額が適正な範囲を維持できているか等を継続的に検証していただく作業も重要です

予め不測の事態や物価上昇等を加味し、かなり余裕を持たせた計画を立てている管理組合もありますが、大規模災害も含め、何十年も先まで正確に予測することは困難です。
また、状況によっては専有部分の給排水管の更新について、あるいは、建替えや再生工事、解体を視野に入れた議論が必要になるかもしれません。

4.最近の長期修繕計画見直しの傾向

専有部分の給排水管の更新を見込む

長期修繕計画において修繕の対象となっている部位は、「共用部分」です。
そして、専有部分の維持管理は、個人の責任と負担で実施することが「建前」です

築30年以上経過したマンションにおいては、給排水管の更新工事が重要なテーマとなりますが、そのようなマンションの管理のお手伝いをしているうちに、あることに気づきました。
専有部分の給水(給湯)管や排水管の更新については、個人での実施を前提に修繕計画を進めようとしても、個人の考え方の違いや経済的な事情等が影響し、専有部分の工事が進まないことです。

そうなると、共用部分(竪管)を更新しても、専有部分を原因とした漏水事故が多発するようになり、多額の損害賠償の問題、上下間住戸の近隣トラブルの問題、管理組合が関与を余儀なくされる煩わしさの問題等が起こり大変なことになります

【イラスト】保険証券「保険に入っているから大丈夫」という考え方もあるかもしれませんが、最近の高経年マンションで発生している漏水事故の多さは保険会社も十分知っています。
実際、漏水事故が頻発した高経年マンションにおいて、更新時に高額の保険料になり、更新を断念した例は結構あります。
そうしたマンションの中には、各戸の自己責任とし、リフォーム時の工事を促したり個人で加入する保険でカバーするよう周知したりしている例もありますが、保険については「"経年劣化"による水漏れ」をカバーしているかしていないか、将来的な保険料の値上げの可能性等についても、しっかり周知しておく必要があると思います。

私は長期修繕計画に専有部分の給排水管の更新を見込むようにお勧めしていますが、これにも以下のような注意点があります。

給排水管更新工事の注意点

  1. なるべく早い時点で管理組合としての考え方を周知しておく。
    築年数の経過とともに専有部分のリフォーム工事も多くなってきます。区分所有者によっては、このときに専有部分である給排水管の横引管を更新される場合があります。
    後になってから、専有部分の工事を個人負担でやった方と管理組合の負担でやった方の不公平感が出ないように、管理組合で実施する方針が決まれば、なるべく早く区分所有者にお知らせした方が良いと思います。
  2. 管理規約を改正する。
    最近のマンションの管理規約は、多くの場合国土交通省の「マンション標準管理規約」をベースに作成されていますが、専有部分の工事に関しては、要約すると「共用部分と一体化している個所(給排水管はその典型です)に関しては管理組合が管理(工事)を行うことができるが、費用負担は個人である(修繕積立金を使用してはならない)」となっています。
    この部分に問題があり、専有部分の工事に修繕積立金を使ったことについて裁判に発展している場合もあります。

このようなことが起こらないように、「共用部分と一体化した専有部分の工事に、修繕積立金を使用することができる。」というように管理規約を改正しておくことをお勧めしています

段階増額積立方式より均等積立方式

【イラスト】お金の束修繕積立金の積立方法には2通りあります。
数年ごとに積立金の額を少しずつ増やしていく方式を「段階増額積立方式」といいます。この方式は、以前は多く採用されていました。特に分譲会社が最初に提示する長期修繕計画においてはほとんどこの方式です。
購入当初の積立金の負担を少なくした方がマンションを分譲しやすいという分譲会社の思惑もあるなどと言われていますが、結局はツケを先送りする理屈と同じで、将来負担する修繕積立金の額が大きな額となってしまいます。

一方、積立期間中の徴収額を変えない積立方式を「均等積立方式」といい、当初の負担額は大きく感じることもありますが、その金額が将来通じて変わらないというメリットや途中でマンションを購入する人にも分かりやすいということもあり、最近はこの方式を採用する管理組合が多くなっています
前述の国土交通省のガイドラインでもこの方式を推奨しています。

大規模修繕工事の実施周期を12年より長く設定する

2008年に国土交通省から公表された「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン」では、多額の費用を使って実施する外壁や屋上の修繕工事(いわゆる「大規模修繕工事」)の実施周期は、「参考」とはしているものの12年と記述されています

この「12年」は、昔から多くの書籍や資料で目にしますが、明確な根拠はありません。
もちろん法律で定められているわけでもありません。

「屋上防水工事の保証期間が一般的には10年なので、期待耐用年数は12年くらい・・・」とか、「外壁のシール材の耐用年数は10〜12年くらい・・・」など、なるほどと思うような説もありますが、この12年周期を延ばすことができれば、長期修繕計画の計画期間中の大規模修繕工事の回数を減らすことができるので、その分計画期間中の工事費用総額を減らすことができます

仮に15年前後の周期に延ばすことができた場合、たった2〜3年ではありますが、長い目で見れば大規模修繕工事の回数を減らすことが可能になります。

そうなると、当然ですが、修繕積立金の設定額(増額)も少なくて済みます

【イラスト】大規模修繕工事等で組んだ足場ただし、大規模修繕工事の周期を延ばすためには、外部仮設足場を必要とする工事(具体的には外壁塗装、シール打替工事、タイル補修工事など)について、それなりの耐用年数が期待できる材料や工法を考える必要があります
従いまして、まずは次回の大規模修繕工事をそれに対応できる仕様で計画し、その次からの大規模修繕工事を新たな周期で計画すると良いと思います

なお、以前の記事「施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について」でも触れましたが、タイル、石貼り等を使った外壁については、建築基準法第12条に基づく定期報告制度により、全面打診等の調査が必要になります(お住まいの地域によって対象になるかならないか変わります)。
対象になる場合、「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」については、「竣工、外壁改修等の後10年を超えてから最初の調査である場合」と定義されているため「基本的に10年毎に全面打診等の調査・報告が必要」になりますが、「3年以内に外壁改修もしくは全面打診等を完了することが確実である場合」は全面調査の猶予が認められています。
つまり、従来通り大規模修繕工事が12年周期の場合、大規模修繕工事の際に外壁調査を行うようにしても大丈夫で、その場合は外壁調査のためだけに新たに足場を組まずに済み効率的です。

しかし、大規模修繕工事の周期が延びる場合、外壁調査のためだけに足場を組む必要が生じる可能性があります

足場を組むのは結構な費用がかかってしまうため、外壁調査のためだけに足場を組むのは非効率ですが、その場合、打診ではなく赤外線調査(ドローンを使った目視+赤外線調査含む)という方法もあります。
ただし赤外線調査は、例えば東京都の定期報告に関するQ&A
「東京都所管物件においては、赤外線調査を行うことで、落下により危害を加えるおそれのある部分の劣化及び損傷の状況が正確に判断できる場合、赤外線調査での確認を認めています。赤外線調査を行う場合、測定確度が確保できるか、障害物はないか等に留意した上で調査を実施してください」
と記されている通り、条件によっては期待する精度を確保出来ない場合があるので、その点には十分な注意が必要です
検討時、所管の特定行政庁にも確認を取るのが良いと思います。

<追記>
外壁のタイル等のドローンを活用した赤外線調査について、令和4年3月、国交省から「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査 ガイドライン」が発表されました。

【さいごに】給排水管の更新については十分に議論を!

今回は、長期修繕計画に関する基本的な内容と最近の傾向が中心となりましたが、いかがだったでしょうか。
次回は、長期修繕計画にまつわる誤解集をご紹介する予定です。

なお、本文でも触れた専有部分の給排水管の更新については、長期修繕計画の「建前」からは逸脱するかもしれませんが、区分所有者の皆様で一度十分に議論されることをお勧めします

<余談>

冒頭でもお伝えしたとおり、今回の特集で取り上げた長期修繕計画は、築年数が経過(15年以上)したマンションにおいて見直しを行った際の長期修繕計画書を対象としています。
その理由は、最近分譲されたマンションの長期修繕計画は、使用部品の材質が違ったりして計画周期等が異なる工事等があることです。
また、マンション自体も、設備の更新工事がやりやすい設計上の配慮もされています。
何十年も経たないと分からないこともありますが、技術の進歩や材料の進歩によって、より長持ちする、より維持・管理しやすくなるマンションが出来ているのはとても良いことだと感じています。

投稿者プロフィール

重松 秀士
重松 秀士重松マンション管理士事務所 所長
プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。