こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
以前からこのブログでもお伝えしていますが、近年給排水管(給湯管を含む)の更新工事※1のコンサルティングが増えています。
マンションにおける給排水管の更新工事を円滑に実施するためには、専有部分をはじめ、克服しなければならない多くの問題があり、外壁等の大規模修繕工事とはまた違った難しさがあります。
そこで、現在工事を検討している管理組合、これから検討しようとしている管理組合の方々のために、改めて管理組合が給排水管の更新工事をじょうずに進めるポイント等について、最近の事例を織り交ぜながらご紹介したいと思います。
なお、最近建設されたマンションは、使用している給排水管の材料が、30〜40年前のマンションとは異なりますので、耐用年数も飛躍的に伸びています。
今回は、これから給排水管の更新工事を迎える築30年以上経過したマンションを対象としてお話しさせていただきます。また、更新工事に関する技術的な説明ではなく、管理組合運営(ソフト面)を中心に書かせていただきました。
- 交換工事のこと。交換せずに、管内に樹脂等をコーティングする工事は更生工事という
1.工事検討のきっかけは?
給排水管は、壁のパイプスペースや床下(場合によっては天井裏)に隠蔽されていますので、普段は居住者が目にすることはありません。ときどき外部のメーターボックスを開けたときに、給排水管やガス管の竪管(共用部分)を目にするくらいです。
外壁塗装やタイルのように日常居住者が目にする場所であれば、「汚れてきた」、「破損している」などと分かるのですが、給排水管の場合は、傷んできても普通は分かりません。
では、どのようになったら給排水管の更新工事を検討するようになるのでしょうか?
漏水事故の多発が検討のきっかけに
「長期修繕計画において実施時期になっている」という理由もありますが、私が経験した事例では、「漏水事故」をきっかけに検討を始めることが多かったです。
ある日突然に上の階から水が漏れてきたという話をときどき聞かれると思います。
上階の人も、「水をこぼした覚えはない」という時などがその例です。
多くの場合は排水管の劣化による配管の穴あきで、生活排水(雑排水や汚水)が漏れてきますので、当然に大騒ぎになります。
マンションによっては漏水事故の被害が大きな問題に
漏水事故も、マンションによってその程度は様々です。
きれいな水であればまだ良いのですが、そうとは限りません。
排水管の横引管(個々の部屋の排水を竪主管まで流す配管)は、一般的には自室の床下に敷設されていますが、私がお世話になっている築40年以上のあるマンションでは、下階の天井裏を通っています。
このような状態で排水管から漏水したら、下階の人は、自分の部屋の天井から突然に雑排水や汚水が漏れてくることになるので大変です。
また、最上階の通気管※2が腐食して破損し、悪臭被害が出る場合もあります。
給水管の場合であれば、管内の錆が原因で「赤水※3」が流れてきたりするので、居住者から「どうにかして欲しい」とやはり騒ぎになります。
- 排水管の排水をスムーズに行うために空気を通す通気口
- 給水管内部の錆が水の中に混じるため、錆色の水が出てくる状態
断続的な漏水事故で、恒久的な対策の検討へ
このように、給排水管の事故は生活と直結していますので、事故が発生したら直ちに対応(修理)することになりますが、一度事故が発生すると連続して同様の事故が発生することが給排水管の事故の特徴です。
どの部屋も同じ時期に同じ材料を使って建設しているので当然ともいえます。
そして、それなりのコストをかけて応急的な対応をしても、それ以降断続的に同様の事故が発生しますので、今後のことを考えると何らかの恒久的な対策をとらざるを得なくなり、ファイバースコープ、カメラ、レントゲン等の検査を経たうえで更新工事を検討することになります。
マンションが竣工して30年を経過すると、建物だけでなく設備関係の修繕も対象になってきますが、国土交通省が公表している昨年末の分譲マンションストック数は670万⼾を超え、その内、築30年以上を経過したマンションは230万⼾を超えています。
給排水管の更新工事は今後さらに増えていくことでしょう。
2.給排水管改修(更新)工事を成功させるための秘訣
外壁等の大規模修繕工事との違いを理解する
給排水管の更新工事は大規模修繕工事とは違った難しさがあると申し上げましたが、その主な違いを一覧表にしてみました。
大規模修繕工事 | 給排水管更新工事 | |
---|---|---|
大掛かりな足場 | 必要 | 不要 |
工事の対象となる共用部分 | 専有部分との区分が、比較的分かりやすい | 専有部分と一体となっており、区分するのが難しい |
工程管理 | 天候等に左右されるが、再調整することが可能 | 天候の影響は受けないが、1日刻みの詳細な管理が必要 |
住戸内への立入り | 原則不要 | 必要 |
室内工事 | なし | 内装の解体・復旧工事を伴うことが多い |
上記以外にもあると思いますが、大きな違いは、大規模修繕工事は原則として建物の外部を中心とした工事となるのに対し、給排水管更新工事は建物の内部を中心とした工事となることです。
居住者のお部屋の中に入っての工事となり、しかも壁や床(天井)の内装を壊して復旧するという作業がありますので、居住者のストレスは計り知れません。
そのうえ、1日刻みの工程をきちんとこなしていかなければなりません。
ですから、管理組合は「どんな困難を乗り越えてでも、この大変な工事を完成させないといけない」という強い覚悟と「居住者に対するきめ細かな配慮が大切」という思いやりが必要となります。
問題となりそうな事項を工事に先立ち検討しておく
外壁等大規模修繕工事であれば、工事前に決めておくべき事項や居住者に対するお願い事項等は概ね決まっており、しかもさほど大きな資金負担につながるようなことはありません。
また、工事が進んでいくうちに予想外のことが発生しても、多くの場合は対応することが可能です。(もちろん資金的な問題はありますが...)
しかし、給排水管更新工事の場合は、事前に方針を決めて十分な準備をしておかないと、途中で簡単に方針を決定したり変更したりできませんし、またそのために臨時総会を開催しなければならなくなるなど、手続上もかなり厄介な問題があります。
3棟からなるマンションのものですが、11のタイプに分類することが出来ました。
以下に事例を交えながらいくつかご紹介します。
1横引管(専有部分)の工事をどのようにするのか?
一部の例外を除いて、給排水管の横引管は専有部分※4です。
管理組合が行う工事の対象は、共用部分※5が原則ですので、「管理組合は共用部分である竪管を中心に更新するので、専有部分である横引管については、個人の判断と費用負担で実施(更新)してください。」となります。
しかし、前述のように給排水管については、共用部分と専有部分が一体化しており、密接な関係にあります。例えば、「我が家はお金がないから、横引管の更新工事はやらない。」となったらどうでしょうか?
どこからでも漏水事故が起こってもおかしくない状況になっているから、管理組合は更新工事を検討しているのに、更新工事を実施しても、横引管をそのままにしておけば、そこから漏水事故が発生する可能性が残ります。
マンションでは、給排水管を更新する場合は、竪管(共用部分)と横引管(専有部分)を同時に更新することが望ましいといわれています。
しかし、専有部分の工事を個人の判断に委ねてしまえば、せっかくの大事業が不完全な工事のまま終わることになります。
専有部分からの事故であれば、その責任は専有部分の所有者となりますが、下階を水浸しにしてしまった場合の損害賠償は高額になりますし、そうなってから自分の横引管を修理しようと思っても、更に多額の費用が掛かるので経済的な負担も甚大になります。
「保険に入っているから大丈夫」とおっしゃる方もいますが、築年数が経ったマンションにおいては保険料は高くなりますし、新規には引き受けない保険会社も出始めています。また、工事をしなかった特定の個人を守るために、管理組合が保険料を負担するのはおかしいという意見もあります。
私見ではありますが、給排水管の横引管は、専有部分であっても管理組合の責任と負担で、竪管(共用部分)の工事を実施する際に同時に行うべきと考えています。
しかし、そのためには「資金」の問題と「管理規約」の問題が出てきます。
「資金」に関しては、修繕積立金の値上げや借入れを検討して合意形成を図るべきと考えますし、「修繕積立金を専有部分の工事のために使用する」には管理規約も一部変更する必要があります。
マンション標準管理規約が改正され、配管工事についてコメントが追加されました
国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」が2021年6月に改正されましたが、給排水管更新における専有部分の工事に関するコメントが新たに追加されました。
条文自体は、「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」というもので、従来から変わっていません。
しかし、これに対するコメント、特に費用負担の部分が一部追加され充実しています。
第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。
出典:マンション標準管理規約 単棟型 21条(敷地及び共用部分等の管理)第2項のコメント⑦
従来は、「雑排水管等の清掃(高圧洗浄等)は、管理費からの支出で問題ないが、専有部分である横引配管を更新する場合は各区分所有者が個人で実費を負担するべき」という趣旨のコメントが記載されていました。
今回は、それに「共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる」と追加されています。
もう少し分かりやすく書くならば「各戸が単独で行うよりも安く工事が出来る場合は、修繕積立金を使って共有部分と専有部分をまとめて工事することも可能である」という感じでしょうか。
ただし、続けて条件の記載があることに注意しなければなりません。
- あらかじめ長期修繕計画に専有部分の配管の取替えについて記載すること
- 管理規約で、その工事費用を修繕積立金から拠出することを規定しておくこと
更に、「先行して工事を実施している区分所有者に対しての補償の有無などにも十分に留意することが必要」と書かれている点も重要なポイントです。
今回の追加コメントに関連した判例について
余談になりますが、私がお世話になっているマンションで給排水給湯管の更新工事を実施した際に、専有部分の工事に関する費用を修繕積立金から支出して、管理組合が一部の組合員から訴えられた事例があります。
私のブログでも過去にご紹介いたしました。
【参考】修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の最高裁決定について
この裁判は最高裁まで争われましたが、結果は管理組合の勝訴となり、マンション管理関連の全国紙などでもかなり取り上げられました。
専有部分にかかわる工事となると「大丈夫なのか?」「いやいやダメだろう」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、裁判により認められた事例になりますので、是非参考にしていただければと思います。
今回のマンション標準管理規約の追加コメントは、この判例がかなり影響していると思っていますが、前述のように築30年以上を経過したマンションが230万⼾を超える中、良好な管理状態を維持できるマンションが少しでも増えれば良いなと思います。
- 内装等と同様に個人の財産。個人の責任と負担で管理する部分
- 建物のコンクリート部分やエレベーター等区分所有者の共有財産。管理組合の責任と負担で管理する部分
2復旧するべき内装仕上げ等の基準はどのレベルで実施するのか?
給排水管の更新工事は、室内の壁や床等を解体し、配管の更新工事が完了したら、また復旧するという工事がつきものです。
築30年以上も経つと、多くの住宅でリフォームを実施されており、内装等も竣工当初のものと違っています。場合によっては高額な内装材を使用したり、簡単に脱着することが難しいシステムキッチンに変更されたりしている住戸もあると思います。
内装等の解体復旧に関しては、基本的には管理組合の費用負担で実施しますが、以上のように各戸まちまちの仕上げについてすべてを管理組合で費用負担することは、資金計画の面でも公平性の面でも問題があります。ですから、事前に「管理組合としての対応基準」のようなものを作成し、何度もアナウンスすることが大切だと思います。
直接見て確認したりお話を伺ったりしながら、細かく調査していきます。
3入室拒否や不在(空家)住戸が発生した場合はどう対応するのか?
これも悩ましい問題です。
居住者には、室内の工事期間中(3日〜4日)は原則として在室していただくことになりますが、共働きのご夫婦の場合等は、なかなかそうはいきません。
このような場合は、工事業者に鍵を預けていただくしかないのですが、後のトラブル防止のためには、業者からは工事目的以外に鍵を使用しない旨の「誓約書」、居住者からは工事以外の室内のトラブルについては自己責任とする旨の「承諾書」を提出していただき工事を進めるようにします。
また、空家の場合も同様に外部の区分所有者と連絡を取り、期間中は鍵を貸していただくか、毎日開けに来ていただくかなどの対応をお願いします。
特に対応が難しいのは、室内に入らせてくれない住戸の場合です。
人を入れたくない理由はいろいろあると思います。
「病人がいる」「重要な書類や品物がある」のようなものもあれば、「管理組合のやり方が気に入らないから協力しない」など様々です。
今なら「新型コロナウィルスの感染が怖いから」という理由もあるかもしれません。
このような方々を説得して協力をお願いすることは、経験上容易ではありません。
しかし、ここであきらめてしまえば一大事業が完成しませんので、根気よく説得するしかありません。
それでも協力してくださらない場合もありますが・・・POINT1の「外壁等の大規模修繕工事との違いを理解する」で申し上げた「強い覚悟」が必要という理由は、ここにあるのです。
居住者に対するきめ細かな配慮
何度も申し上げるように、給排水管(特に排水管)の更新工事は、居住者にとって多くのストレスがかかります。
一生に一度のこととはいえ、自分の生活への大きな影響が数日間に渡り及ぶわけですから、仕方がありません。
しかし、この工事は1日刻みのスケジュールを確実にこなしながら先に進めていかないとうまくいきません。
外壁等の大規模修繕工事であれば、「今日は雨が降っているから中止しよう」とか「諸般の事情で工程が遅れてしまったから、引渡し期日を少し先に延ばしてもらおう」等はよくある話ですが、給排水管の更新工事においては、上下階の関係もあり、「この日に確実にこの竪管を更新しておかないと、工程に大きな支障をきたす」とか「夜になっても、お水が使えなかったり、排水を流せなかったりする」など、大きな問題が発生します。
ですから、居住者が工事に協力してくれないと円滑に進められません。
管理組合はこれらのことを、機会あるごとに何回でも居住者にアナウンスしておくことが重要だと思います。
設計概要が固まったら「設計説明会」、工事会社が決まったら「工事説明会」などを開催し、工事の内容、特殊性を訴えるほか、とにかく居住者の協力がないと工事は成功しないことをお知らせしておくことが重要です。
ところで、居住者の中には、協力したくてもなかなかできない方もいらっしゃいます。
高齢の一人暮らしの方に、「事前に工事個所の家具等を移動しておいてください。」といっても、なかなかできません。
また、深夜勤務の警備業や看護師さんから、「昼間は寝ているので工事をしないでほしい」と言われることもあります。
こうした個別の事情にもきめ細かく対応する必要があるのです。
【さいごに】管理組合が主体となって給排水管改修工事を成功に!
冒頭に申し上げた通り、今回は技術的なことは全て割愛し、工事に対する管理組合の運営ノウハウを中心に書かせていただきました。
給排水管の更新工事に関して申し上げると、工事自体はさほど高い技術水準を必要とするものではありません。
技術の進歩により、最近の材料は耐久性も高く施工もやりやすくなっています。しかし、工事を円滑に進めるためにやらなければならない事前の準備や居住者に対する配慮は、管理組合が主体となって進めていかないと良い結果は期待できません。
これから給排水管の更新工事をなさる管理組合はぜひご参考にしていただければと思います。
よろしければ、お客様インタビューもご覧ください。
▼給排水管全面更新工事コンサルティングのお客様インタビュー
当団地初の給排水管更新工事は2年に及び、とにかく大変で(笑)家内からは「いい加減に」と・・・
投稿者プロフィール
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プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。
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